沈みゆく列島で、“界隈”は沸騰する――。
あるアイドルグループの運営に参画することになった、家族と離れて暮らす男。内向的で繊細な気質ゆえ積み重なる心労を癒やしたい大学生。仲間と楽しく舞台俳優を応援していたが、とある報道で状況が一変する女。ファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側――世代も立場も異なる3つの視点から、人の心を動かす“物語”の功罪を炙り出す。
「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」
読んでいて以前、朝井さんが書かれた「武道館」を思い出しました。ちょうど10年前に刊行されたようです。あの時もアイドルが登場しましたけど、この短い間にアイドル像が大きく変化しているな…と思います。数年前からオーディション番組が増えて、デビュー前からいわば「推し」のことを応援する人も増えてきましたよね。
私はいわば事務所に言われて寄せ集められてデビューしたグループのファンで、デビューの想いに温度差がある人達からオタク人生がスタートしたので(笑)今の「推し活」界隈とは若干温度差があるような気もしています。時代も違いますし…。
ただ、読んでいて運営側の言葉に対して心が荒み、抉られる部分は多々あったし、推す側の人間の気持ちに対しての共感や違和感も感じて、感情がめちゃくちゃ動いた読書でした。本を読んでいてこんなにいろんな感情が蠢いたのは初めてだと思います。
運営側が言う「物語」を私たちは受け入れて感動して言い方に語弊があるかもしれないけど課金をする。そのしてやったりな感じがとてもいけすかない。でも、多分事実もあるのだろうと思います。芸能界を生きる人たちが思って考えていることはひとりひとりもちろん確固たる思いがあるのも事実だろうけど、それを歪曲して上手いこと経済発展まで考える運営がいることも事実。
ただ、それもビジネスだから、受け入れるところは受け入れなければならない気はします。納得はしないけど。
運営側に回ることになった久保田は、最終的に行き過ぎた行動をしてしまったけど、一番人間味があって分かりやすくて私は好ましく感じる人物でした。40代以上の男性はこういう凝り固まった人が多いんじゃないかな。それは時代もあるから仕方のないことだと思う。勇気をもって変わろうと思ったのは凄いし偉いと思います。そして娘の澄香。2人が見ているものや聞いていることに対して交差しているところがたくさんあったのに、それが読者にしかわからないのがもどかしかったー。お互いに言っていればきっと関係も少しは変わったかもしれないのに。
昔からオタクをしているからだと思いますが、私は「推し」という言葉が好きではありません。この「推し」という言葉こそが運営側が経済を動かすために使用している言葉のような気がします。
絢子やいづみと年の近い私は「推し」という言葉を使ってアイドルを追っかけているキラキラした綺麗な人達に気後れしてしまうところがあります。「オタク」と自虐も含めて言っていて、ちょっと近寄りがたい存在みたいな扱いの方が少しだけましなような気がしてしまうから私も古のオタクなのだと思います。こちとら「推し」なんて言葉が出来る前からオタクやってんだっていうよく分からないプライドもあったり。
ちゃみするがしてきた行動は、私もSNSでたまにやっている人を見かけます。古のオタクなので私は見かけると引いてしまっています。ランダムな特典を全制覇するためにたくさん同じものを買ったりしないし、知り合いに頼んで再生回数を増やすこともしないし、そもそも推し(敢えてこういうが)は雲の上の存在で、同じ空間で息を吸ってはいけないくらい崇高な人。そもそもランダムもSNSも昔はなかった。その時代からのオタクで本当に良かったと思います。今20代前半だったら私はきっと破産してしまっていました。そのくらい推し活文化は底なし沼なんですよね。
何を言っているか分からなくなってきましたけど、結論から言うと、運営側に振り回されていようが何だろうが好きな人のことは好きで、そして好きでもない人を無理矢理巻き込んだりせず、気持ちもお金も自分が無理しない範囲で応援するのが自分にとっては良いのかなと。私なりの好きを貫き通したいと思いました。
ちゃみするが同じ推し達と会うシーンは私もとても共感できました。年齢が違っても気軽に自己紹介が出来るし、敬語だとしても楽しく話せる。いわば同士や仲間、味方がいるという安心感は私もオタク友達と会うと感じます。なによりとても楽しい。
この本を読んで、私は視野を広げて生きているのか狭く生きているのかどっちなんだろう…と考えています。私は好きな人がいるお陰で視野が広くなったと思っていたけど、もしかしたら狭くなっているのかもしれないと。
今までの朝井作品の中で1番自分の琴線に触れた作品でした。面白いとか面白くないとかそういう次元では語りつくせません。ただ、何かしらの「好き」を持つ人には世代関係なく読んで欲しい。そしてどう思ったかを聞きたいと思います。
<日経BP 2025.9>2025.10.24読了

























