あれから何年経っただろう。あれからって、いつから? どのできごとから?
日本を襲った二つの大震災。未知の病原体の出現。誰にも同じように流れたはずの、あの月日──。別々の場所で暮らす男女三人の日常を描き、蓄積した時間を見つめる、叙事的長編小説。
パートの事務員・石原優子、調理師・小坂圭太郎、写真家・柳本れいの3人がそれぞれ自分が住む場所でコロナ禍の世界を生きている日常の物語。こんなことがあったなぁと思い出しながらの読書でした。東日本大震災の時も、阪神淡路大震災の時もそうだったなと思い出しながら日々日常を送っている。それぞれが今の生活が恵まれていると思いながら、でもそれだけではないと感じながら。出てくる人たちみんなが親との関わりに少し距離があるように感じて、でも全く関わらないというわけにはいかないから、そのまま距離を持ったまま生きていて。日常の中にある少しの機微を書くのが本当に上手いなぁと思います。同世代の桂太郎の妻貴美子と独身のれいに感情移入しながら読みましたが。3人が生活しているところのどこかに、自分もいるのだというなんというか、リアルさも感じました。
読んでいて傷つく言葉もたくさん出てきたけど、自覚がなくひどいことを言うような人間にはなりたくないなと思いました。優子の同僚の河田さんのように嫌なことは嫌、悪いことは悪いと言える人間になりたいと思いました。
<新潮社 2023.12>2024.1.29読了