他人からはままならない恋愛に思えても、本人たちは案外、その”雑味”を楽しんでいるのかもしれないーー。
*5つのちょっと不思議な、新たなる読書体験
「停止する春」
東日本大震災から11年目。会社で毎年行われていた黙とうがなくなった。
それから私は、仕事を休むことにした。代わりに、毎日時間をかけて大根餅を作る。ある日、八角の香る味玉を作り置きした私は、着ていたパジャマの袖口を輪にして戸棚に結び、首を突っ込んだ……。
「最悪よりは平凡」
掃除機をかければインコをうっかり吸い込み窒息死させ、夫が書斎を欲しがれば娘を家から追い出す母に、「妖艶な美しい娘」をイメージして「魔美」と名づけられた私。顔見知りの配達員にはキスされそうになり、年下のバーテンダーには手を握られ、不幸とまでは言い切れないさまざまな嫌気を持て余す。
「家出の庭」
ある日、義母が家出した。西日に照らされた庭に。青いテントの中で義母はオイルサーディンの缶を開け、赤ワインを飲んで眠る。家出3日目、私はお腹に宿した子が女の子だと知る。
「God breath you」
女子大でキリスト教を中心に近現代の文学を教える私はある日、ほろ酔いでおでんバーから出たところを若い青年に声をかけられる。彼は、世を騒がせた宗教施設で幹部候補として育てられた宗教二世だった。
「一撃のお姫さま」
歌舞伎町が舞台のアニメ主題歌の仕事を受けたアーティストの睡は、音ゲーの配信者兼会社員の友人から、曲作りのためホストに通うことを提案される。100万円を使い切ることを決めた彼女は夜な夜なチープな照明に照らされ、シャンパンコールを浴びることになるがーー。
島本さんの短編集ってあまりない気がします。新鮮でどの作品も面白く読みました。
「停止する春」「最悪よりは平凡」「God breath you」の主人公の女性は恐らく私と同世代だと思うので、何だか抉られるような気持で読みました(笑)まあ私は恋愛に依存したことはないし、綺麗でもないので色恋沙汰の諸々が共感できたわけではないんですけど、その年齢の想いとか感情とか分かるなーと思うところがあって抉られました(笑)恋愛と言う部分で見ると私は割と「God breath you」が好きでした。とても危ういけど…。でも年齢関係なく好きだと素直に言ってくれる姿が素敵で良い恋愛だなと思いました。お話としては「家出の庭」が好きです。義母が変わった人っぽいけど面白そうな人だなと思いながら読んでいたのですが、読み進めていくうちになるほどそう言う事か…と思い。それでもこの家族はみんなで労わりあって慈しんで、支え合って生きていくのだろうなと思いました。素敵な家族でした。
どのお話もチリっと痛くて、良いお話でした。
<文藝春秋 2025.6>2025.7.29読了

































