古豪・明誠学院大学陸上競技部。
箱根駅伝で連覇したこともある名門の名も、今は昔。
本選出場を2年連続で逃したチーム、そして卒業を控えた主将・青葉隼斗にとって、10月の予選会が箱根へのラストチャンスだ。故障を克服し、渾身の走りを見せる隼斗に襲い掛かるのは、「箱根の魔物」……。
隼斗は、明誠学院大学は、箱根路を走ることが出来るのか?
一方、「箱根駅伝」中継を担う大日テレビ・スポーツ局。
プロデューサーの徳重は、編成局長の黒石から降ってきた難題に頭を抱えていた。
「不可能」と言われた箱根中継を成功させた伝説の男から、現代にまで伝わるテレビマンたちの苦悩と奮闘を描く。
箱根駅伝がテーマの小説なんて、読まないわけにはいかないでしょう！ということで意気込んで読みました(笑)
あらすじから予選会のこともじっくり書くのかなぁと思いましたが、結構あっさり終わって拍子抜けしました。そしてあっさり終わった理由も分かりました。主人公たちは、関東学生連合の選手たちなんですね。それが分かった瞬間、堂場瞬一さんの「チーム」を思い出しました。「チーム」は学連選抜なので、記録も残るし順位も残る。シード権を獲得すれば予選会の大学を1校増やすことが出来るというものでした。しかし、学生連合はすべてが参考記録で順位も無く、記録も残りません。それでも、監督や選手たちの熱い思いに、箱根駅伝というものが、そんな単純なものではないと思わせてくれた気がします。そして「チーム」を読んだ時にも思い出したのですが、こちらの作品の中でも２００８年の箱根駅伝のことが書かれていました。学連選抜が史上最高位の４位でゴールした時のこと、私も鮮明に覚えています。何よりこの本戦出場をかけた予選会で１０位と１１位の差がたった１秒だったということが忘れられなくて。拓殖大の選手が良く気持ちを切り替えて走ったなと思っていたんです。当時の監督は青学の監督だったんですね。てっきり拓殖大の監督だと思っていました。青学の監督とこの小説で登場する甲斐監督の共通点はビジネスマンとしてキャリアを積んだ経験があることとと書かれていて。確かに監督としての経験値も大きいと思うけど、それだけではないものがあるんだろうなと思います。
テレビ局側の話は、裏側を知ることが出来て良いですけど、何だかきな臭いというかなんというか…(笑)嫌な感じですね。アナウンサーが病気で離脱することになったくだりは河村アナウンサーを思い出して哀しくなりました。そして期待していないチームに対する対応があからさまなのも嫌だったな。辛島アナウンサーの選手たちとの接し方がとても意外で素敵でした。これは下巻になったらもっとわかっていくのでしょうか。
いわば寄せ集めのチームと言われている関東学生連合。エントリー発表の時のサプライズに不覚にも泣いてしまいました。まだ上巻なのに。甲斐監督の凄さもまだ分かっていない部分もたくさんあるし、強豪校の不穏な部分も気になります。下巻も心して読みます。
＜文藝春秋 ２０２４．４＞２０２４．８．３０読了
