からだは傷みを忘れない――たとえ肌がなめらかさを取り戻そうとも。
「傷」をめぐる10の物語を通して「癒える」とは何かを問いかける、切々とした疼きとふくよかな余韻に満ちた短編小説集。
「みんな、皮膚の下に流れている赤を忘れて暮らしている」。ある日を境に、「私」は高校のクラスメイト全員から「存在しない者」とされてしまい――「竜舌蘭」
「傷が、いつの日かよみがえってあなたを壊してしまわないよう、わたしはずっと祈り続けます」。公園で「わたし」が「あなた」を見守る理由は――「グリフィスの傷」
「瞬きを、する。このまぶたに傷をつけてくれたひとのことをおもう」。「あたし」は「さやちゃん先生」をめがけて、渋谷の街を駆け抜ける――「まぶたの光」
……ほか、からだに刻まれた傷を精緻にとらえた短編10作を収録。

傷を巡る10の物語。なので、読んでいてひえぇぇと思う描写もたくさんありましたが^^;面白く読みました。
印象に残ったのは「あおたん」かな。タイトルを見てまず、あおたんって北海道弁では…と思って(笑)そしてそれはあおたんではなく入れ墨だったんですね。語り手の女性が可哀想で。でも、二重を一重にしたことで自分らしく生きられるようになったというのが良い終わり方だったなと思いました。
そして最後の「まぶたの光」「私」が幼少期から通う病院に同級生の男の子がいて、彼も幼少期に傷を負っていた。2人が多くを語らずとも奥底で分かりあえたような感覚が良いなと思いました。そして「私」が先生に向ける憧憬も。その男の子がメイクをしているらしいと噂になっていることを知った時の「私」の返答もとても良かった。
どの作品も短編だったけど、千早さんらしい心の機微が文章から伝わる優しい物語でした。

<集英社 2024.4>2024.5.30読了