
雪深い暗い王国ルーブ。
英雄であり人格者であった先王バルが早くに没して20年。女王デンは「永久女王」としてルーブを統治していたが、溺愛していた第一王子ナルが病に倒れてからは国のことを見なくなり、魔法使いを城に招き入れ、閉じこもるようになった。ルーブ国は統治者を失った国になっていた。国は呪われ、民は貧しさに疲弊し、反乱の気運が高まっていく。
そこで城に呼ばれたのが第二王子トルであった。トルは幼い頃から「呪われた子」とされ城から遠ざけられていたが、反乱分子を鎮圧するために再び城に戻される。使命に燃えたトルは、反乱分子の首を次々に落とし「首切り王子」として恐れられるようになる。
リンデンの谷に住む娘、ヴィリは死ぬことにした。これ以上、生きる理由が見当たらなかったからだ。最果ての崖にたどり着いたヴィリが目にしたものは白い空と黒い海と首切りの処刑であった。
首切り王子トルは死を恐れないヴィリに興味を持ち、召使いとして自分に仕えるように命令する。
城に連れられていくヴィリが耳にしたのは王子の歌であった。美しくも悲しい歌。ヴィリはトルに深く暗い孤独を見る。
こうしてヴィリは召使いとして首切り王子に仕える日々を送り始める。
そこに見たのは野心や愛憎、陰謀が渦巻く人間たちの姿であった。
井上芳雄 伊藤沙莉/高橋 努 入山法子 太田緑ロランス 石田佳央 和田琢磨 小磯聡一朗 柴田美波 林 大貴 BOW 益田恭平 吉田萌美/若村麻由美
2021年に上演された舞台。WOWOWで放送されていたのですが暫くHDDに眠っていて。沙莉ちゃんが朝ドラやって話題になっているし今見るか!みたいな気持ちになってようやく見ました(なんだそれは)井上さんの舞台を観に行ったことはないのですが、沙莉ちゃんの出演舞台は1度見たことがあります。2017年に上演された剛くんが主演の「すべての四月のために」です。もう7年も経つのか…トオイメ。四姉妹の末っ子を演じられていて、私は沙莉ちゃんの演技に号泣したのを今でも覚えています。懐かしい。演出は蓬莱竜太さん。お名前拝見したことがあるな…と思ったら「夜中に犬に起こった奇妙な事件」の演出をされていたんですね。こちらの舞台は2014年…もう10年も…以下略。
この舞台は出演者も気になりましたがタイトルがダークすぎて気になったというのもあります。いったいどんな舞台なのだろうとドキドキしながら見ましたが、こちらでもお2人に泣かされました。
初めは極悪非道な人をごみのように殺す王子だと思っていたトル。でもそれはただ言われた仕事をこなしているだけで、中身はほんの子供であったのだとヴィリは気づきます。そしてトルが「呪われた子」と呼ばれていることも。女王デンはトルを息子として大事にしているように見える反面、唐突に冷酷な眼差しを向けることもあり、それは何を意味するのかと思っていましたが、まさか病に倒れたナルの魂を入れる箱としか捉えていなかったとは思いませんでした。
誰も信じられない。血を分けた親でさえも。自分はなぜ生まれてきたのか。生きる意味とは?それがすべて絶望に変わった時のトルの心情は、計り知れないし、自分は分かりません。それでも、ヴィリだけは、自分に生きていてほしいと言ってくれた。それはトルにとって最大の支えとなったと思います。一瞬だったかもしれないけど…。でも、トルは何もかもを人から奪い過ぎました。仕方がないと思いつつも、生きていてほしかったとも思います。最後の2人のシーンはとても切なくて、涙が出ました。本当に素晴らしい舞台でした。お2人の演技もそうですが、わきを固める俳優陣も本当に素晴らしかった。若村さんは「鉈切り丸」で1度拝見していますが、舞台上での貫禄と存在感が本当に凄いです。登場すると一気に空気が変わるのが本当に素晴らしかったです。入山さんの惑う王女も素敵でしたし、理想的本箱でしか拝見していなかった太田さんの演技に魅了されていました。凄かった…!かっこよかった!ようやく観ることが出来て良かったです。