一枚の不思議な「絵」の謎を追い、令和から昭和、大正へ。
日本最後の空襲といわれる秋田・土崎空襲。
戦争が引き起こした家族の亀裂は、現代を生きる人びとにも影を落としていた。
ある事件をきっかけに報道局からイベント事業部に異動することになったテレビ局員・守谷京斗(もりや・きょうと)は、異動先で出会った吾妻李久美(あづま・りくみ)から、祖母に譲り受けた作者不明の不思議な絵を使って「たった一枚の展覧会」を企画したいと相談を受ける。しかし、絵の裏には「ISAMU INOMATA」と署名があるだけで画家の素性は一切わからない。二人が謎の画家の正体を探り始めると、秋田のある一族が、暗い水の中に沈めた業に繋がっていた。
1945年8月15日未明の秋田・土崎空襲。
芸術が招いた、意図しない悲劇。
暴走した正義と、取り返しのつかない後悔。
長年秘められてきた真実は、一枚の「絵」のミステリから始まっていた。
戦争、家族、仕事、芸術……すべてを詰め込んだ作家・加藤シゲアキ「第二章」のスタートを彩る集大成的作品。
「死んだら、なにかの熱になれる。すべての生き物のなれのはてだ」
いやー…凄かった。凄かったです。
1枚の絵から繋がっていく壮大な物語に鳥肌が立ちました。
終戦の直前に秋田に空襲があったことを知りませんでした。あと1日。1日早く降伏していればたくさんの命が助かったんですよね…。勇の運命も大きく変わっていたはずで、本当に、戦争は何も生み出さない、失うだけだと思わされました。
事件の真相は一体どう繋がっていくのだろうと気になりながら読み進めていきましたが、最後にちゃんと全てが繋がっていくんですよね…素晴らしい。本当に素晴らしかったです。
京斗と吾妻と長谷川が真実を追求していく過程も面白かったし、京斗と小笠原の関係も良かったし、京斗と愛弓の関係も素敵だった。
全てが解決して、展覧会も盛況で、良かったと思ってからの結末。あぁ…きっとこれで長年の想いが報われるんだ。2人は一体どんな会話をするのだろうと、想像も膨らみます。
とても余韻の残る作品でした。
以前テレビ番組で「水芭蕉について調べていた」と言っていたけど、この作品だったんですね。こちらも勉強になりました。取材もしただろうしたくさんの資料を読み込んだんだろうなということが伝わる作品でした。面白かったです。
<講談社 2023.10>2023.12.6読了