風待ちのひと (ポプラ文庫)
吉實恵
ポプラ社
2018-03-02


“心の風邪”で休職中の39歳のエリートサラリーマン・哲司は、亡くなった母が最後に住んでいた美しい港町、美鷲を訪れる。哲司はそこで偶然知り合った喜美子に、母親の遺品の整理を手伝ってもらうことに。疲れ果てていた哲司は、彼女の優しさや町の人たちの温かさに触れるにつれ、徐々に心を癒していく。
喜美子は哲司と同い年で、かつて息子と夫を相次いで亡くしていた。癒えぬ悲しみを抱えたまま明るく振舞う喜美子だったが、哲司と接することで、次第に自分の思いや諦めていたことに気づいていく。少しずつ距離を縮め、次第にふたりはひかれ合うが、哲司には東京に残してきた妻子がいた――。

伊吹さんのデビュー作、ようやく読めました。
いつか読もうとずっと思っていて今になったわけだけど、今読んで良かったです。
私は今年誕生日を迎えたら39歳になるので、主人公である2人と同い年です。
だから、2人の境遇を読み続けていて、親と死別していたり夫や息子を亡くしていたり、家族とのわだかまりを感じていたりしているのを見て、私は何にも経験してねぇなって思いました(笑)ほぼ同い年の人たちの話なのに、10も20も上の人の話みたいに感じて。親が不仲の中育つと子供は大人びるみたいなことが書かれていましたけど、私は逆なのかもしれないと思いました。良いんだか悪いんだか。
哲司と喜美子の関係は恋が芽生える前も、芽生えた後も素敵だと思いました。境遇が違い過ぎるからこそお互いを尊敬している感じが好きです。お互いが出来ることを尊敬している感じが。
喜美子は夫と息子の亡くなり方から自分が幸せになってはいけないと思っていて、いつも2人に申し訳ないとどこかで思っていて。でも、美鷲に住む知り合いたちはみんな、喜美子に幸せになってほしいと思っている。マダムや舜や舞との関係性がとても好きでした。舜、めちゃくちゃいい子じゃないの。バスでの見送りのシーンは泣きそうになりました。
哲司の妻は「心の風邪」の原因が自分にもあるのだと、きっとわかっていないのでしょうね。正直妻は気持ち悪かったです。哲司が東京に帰ってからの執着は、きっと美鷲のあの女に自分が負けるはずがないというプライドだったんじゃないかなと思います。あんなにいがみ合った後に子供が欲しいと言ったり、デパートへ行った時にあの人にお中元を贈ろうって言ったり、正直どれも気持ち悪かった。娘さんが変に成長しなくて良かったですよ本当に…母親を反面教師にしたのかな。
哲司と喜美子のその後は読んでいるこちらがもどかしくて仕方がなかったけど、最後はほっとしました。お互いのことはまだまだ分からないことがたくさんある。それを知るために一緒になるのでもいいと思います。2人が今度こそ幸せになれることを、願ってやみません。

<ポプラ社 2009.6、2011.4>2023.6.26読了