歴史的偉業の裏に「事件」あり。文豪たちによる大正浪漫ミステリ。
大正七年の秋、与謝野晶子は大阪で宙に浮かんでいた。夫である鉄幹と共に通天閣の足元に広がる遊園地「ルナパーク」を訪れたものの、夫の言葉に血がのぼり彼を置き去りにひとりでロープウェーに乗ったのだ。電飾まぶしい遊園地を見下ろし、夫婦というものの不確かさを嘆く晶子。そのとき突然ロープウェーが止まり、空中で動かなくなって……。(「夫婦たちの新世界」)
遠野には河童や山男など不思議なものがたくさん潜んでいるという。隣村を目指して朝もやの中を歩いていた花子は、「くらすとでるま…」という不思議な声を聞く。辺りを見回すと、そこには真っ赤な顔の老人がいた。かつて聞いたむかしばなしに出て来る天狗そっくりの老人から逃げ出そうとする花子だったが、今度は黒い頭巾に黒い蓑をまとった怪しい男から「面白い話を聞かせてくれないか」と尋ねられ……。(「遠野はまだ朝もやの中」)
カリーの香る探偵譚・野口英世の娘・名作の生まれる夜・都の西北、別れの歌・夫婦たちの新世界・渋谷駅の共犯者・遠野はまだ朝もやの中・姉さま人形八景
短編全てが実際にあったお話のようで引き込まれました。
最初と最後のお話がリンクしていてそれもまた素敵です。
最後の「姉さま人形八景」が大団円のような気がしました。大正の世を自分なりに強い意志を持って生きた女性たち。その女性たちに守られながら巡っていった姉さま人形。
大正はたった15年しかないけど、情勢が変わるような出来事や事件がたくさんあって、その時代を強く生きる人たちのことが少し垣間見えたような気がして面白かったです。
ちょこちょこ有名人が登場するのも面白かった。与謝野夫婦と出会った電気屋さんご夫婦。オチとして最高でした。
<KADOKAWA 2022.12>2023.1.11読了