かつて子役だった沙良は、芸能界で伸び悩んでいた。自分の正体をまったく知らない人間に出会いたい──そんな折に酒場で偶然出会った柏木という男に、たまらない愛しさと憐憫(れんびん)を感じた──。愛に似て、愛とは呼べない関係を描く、直木賞作家の野心作。
子どもの時から芸能の世界に足を踏み入れ、大人になって身近な大人が自分を食い物にされていたことを知る。心に深く傷を負い、仕事に復帰できるまでに時間を要したことで今伸び悩んでいる。
柏木という男に惚れてしまった気持ちは少しわかる。自分のことを全く知らない。でも自分の心のうちは分かってくれている。でもお互いに深くは知らないから深入りせず互いに癒しを求める。
結局最後まで柏木という人間は年齢も含めて分からないことばかりだったけど、きっと2人とも今いる場所から抜け出して前に進めたのではないかと思う。自分のことを理解できる人がいたということだけでも分かれば、生きる支えになる気がするから。
沙良がちゃんと実力で芸能界から注目を浴びるようになって良かった。多分家族とも訣別できたはずだ。いつか変わってくれるはず、分かってくれるはずと願うのは、家族にも他人にも思わない方が良い。自分が傷つくだけだから。沙良の親族は、本当に沙良のことを金の生る木としか思っていないようで腹ただしかった。夫も、私は読んでいてあんまり好きじゃなかったな。沙良への愛情は感じとれなかったし、きっと人のことを言えないことを数々してると思われ。だからと言って沙良と柏木の関係を擁護するわけではないけど…。
<朝日新聞出版 2022.11>2022.12.23読了