荒井尚人は生活のため手話通訳士に。あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。弱き人々の声なき声が聴こえてくる、感動の社会派ミステリー。
仕事と結婚に失敗した中年男・荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一つの技能を活かして手話通訳士となる。ろう者の法廷通訳を務めていたら若いボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始め…。マイノリティーの静かな叫びが胸を打つ。衝撃のラスト!

ずっと気になっていた作品。ようやく読めました。
主人公の荒井尚人は公務員として働いていたがある事情により退職。就職活動をするもなかなか決まらず、荒井は手話が堪能なことから手話通訳士になります。始めは荒井がなぜ手話に長けているのか明かされませんが、匂わせの文章から←あぁ、荒井はコーダなんだなってすぐに気づきました。
健君が手話を勉強しなければ、そしてファンに向けて発信しなければ、私は手話やろう者の方のことをそれほど意識せずに今まで生きてきていたと思います。健君が言わなければ、ろう者の方は字幕がないと映画が見れないから日本語字幕がそこまで主流ではない邦画(今は結構増えてきているみたいですが)ではなく洋画を見ることが多いとか、ろう者の方もスピーカーから出てくる振動に音楽を感じることが出来るからコンサートに行くことが好きな人もいるとか、知らないままだったと思います。この作品が気になって手に取ることもなかったかもしれません。
この作品はろう者の方が生活していく上で大変なことや、今までのろう者の方々の闘いなども分かりますが、それでも内容はしっかりとミステリで面白くて引き込まれました。
今回起きた事件と17年前に起きた事件の関連性。読んでいても全然分からなかったので、まさに衝撃のラストでした。ひえー…。
何よりも驚いたのは著者さんが執筆時はろう者との関わりがある人ではなかったということ。てっきりコーダとか身近にろう者の方がいるとかそういう理由で書かれたと思ったのだけど…びっくり。
荒井の昔からの苦悩は、以前「ろうの両親から生まれた僕が聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」というコーダである著者さんの作品を読んでいたのでそれを思い出していました。当事者じゃないと決して分からないことですよね。私なんかが軽々しく言えることではありません。
こちらの作品にも書かれていましたが、手話は日本語や英語と同じく一つの言語なんですよね。この間健君もテレビで強調させて伝えていました。手話はジェスチャーとは異なり一つの言語だって。こういう作品がもっと世に出てたくさんの人がろう者のこと、手話のことを知ってくれたら嬉しいなと思います。デフリンピックの東京開催も決まったし、10月から始まるドラマでろう者や手話が取り上げられるようなのでそちらも楽しみですし、このシリーズも読み進めていきたいと思います。ちなみに私は健君が「みんなの手話」に出演するようになってから(2014年から)テキストを買って毎週番組を見てますけどいまだに少しの単語くらいしか表現できません^^;

<文藝春秋 2011.7、2015.8>2022.9.25読了