陰陽師シリーズ初の長篇。すべてが始まったのは、いまから12年も前のことだった。月の明るい晩に堀川の橋のたもとで、心のおもむくまま笛を吹く源博雅。その音色に耳を傾ける姫。名前も知らない、淡い恋だった…。思い悩む友を、そっと見守る安倍晴明。しかし、姫が心の奥底に棲む鬼に蝕まれたとき、2人は姫を助けることができるのか? 急げ博雅! 姫が危ない──。主人公・安倍晴明はもちろんのこと、無二のパートナーである源博雅の清澄な魅力も全開の作品です。
ようやく舞台の原作を読み終わりました…。危ないところだった←
陰陽師シリーズ初の長編ということでそこも楽しみにしていたのですが、最初に安倍晴明の説明があり、次に源博雅、ずいぶん丁寧に入るなと思ったら、こちらは新聞で長期連載していたんですね。その経緯が面白かったです。なるほど。だから2人の説明が丁寧になされていたのですね。でも、その中に本編の出来事もおり混ざっているからいつの間にか物語に引き込まれている…。流石です。
そして本編ですが…。予想はしていたんですよね…でも、読んでいて辛くて辛くて…哀しかったです。
舞台の演出家の鈴木裕美さんが、初めは健ちゃんを博雅役にという案もあったとおっしゃっていて、それもよくわかりました。この物語の主役は博雅なんですよね。心が綺麗でまっすぐな博雅だからこその物語。でも、やっぱり健ちゃんは清明だというのも分かります。姫を救うためにどうすればいいのか苦しむ博雅をちゃんと傍で見守り支える清明。博雅を慈しみ深く包み込む清明。
そしてその博雅役が林君というのも凄く凄く分かるんですよねー…心の清らかさ、綺麗さ…ぴったりだなぁと改めて。
話を原作に戻しますが。誰だって鬼になりたくてなるわけじゃない。でも、ならざるを得ない場合もある…。物語にifを付けてはいけないのは分かっているけど、もし、もしも12年前に博雅が声をかけ、一歩前に進んでいたら…そうしたら…。そう思わずにはいられませんでした。生成りとなった姫へ向ける博雅の愛情が哀しくて美しかったです。
素晴らしい物語でした。
<朝日新聞社 2000.3、文藝春秋 2003.7>2022.2.25読了