大人になる途中で、私たちが取りこぼし、忘れてしまったものは、どうなるんだろう――。封じられた時間のなかに取り残されたあの子は、どこへ行ってしまったんだろう。
かつてカルトと批判された〈ミライの学校〉の敷地から発見された子どもの白骨死体。弁護士の法子は、遺体が自分の知る少女のものではないかと胸騒ぎをおぼえる。小学生の頃に参加した〈ミライの学校〉の夏合宿。そこには自主性を育てるために親と離れて共同生活を送る子どもたちがいて、学校ではうまくやれない法子も、合宿では「ずっと友達」と言ってくれる少女に出会えたのだった。もし、あの子が死んでいたのだとしたら……。
30年前の記憶の扉が開き、幼い日の友情と罪があふれだす。
圧巻の最終章に涙が込み上げる、辻村深月の新たなる代表作。
少しネタバレを含みます。
うまく言葉で言い表せないです。いろんな気持ちが交錯して、面白くて読む手が止まらなかったのだけど、面白いという言葉一つで片付けてはいけないと思いました。
あらすじを読んでから読み始めましたが、そこから想像した内容とは少し異なっていたように思います。あらすじはミステリっぽかったけど、今回はミステリではないと思うので…。
遺体が誰なのかも、法子が受けた依頼に関しても割と早めに明らかになります。
多くページが割かれているのが法子と法子が<ミライの学校>で出会ったミカの回想シーンです。
2人が幼少期をどのように過ごしてきたのか、2人はどのように出会い関わることになったのか。それが大半です。そして大人になって過去と向き合うことになる。
「ずっと、放っておいたくせに」この言葉が発せられたのは1度だけですが、この作品を読んでいる間ずっと付きまとってくる言葉です。
それは遺体となって発見された少女の関係者も、法子にその遺体は自分の孫ではないかと依頼してきた老夫婦も、そして、法子自身にも当てはまる。
でも、法子に関しては仕方がないことだと思います。だって子供だったから。1年のうちのたった1週間の出来事だったから。逆にあれだけ覚えている方が凄いと思いました。日常で友達がいなくて寂しい想いをしていて、その時だけ違う自分になれると感じていたとしても。
<ミライの学校>がしてきたことは、決して許されることではないと思います。それはたくさんの子供たちに対しても、ミカに対しても。ミカに対して大人がしたことは卑劣です。自分の醜い部分を隠そうとして結果ミカに何もかもを押し付けたのだと思います。ミカはずっとずっと苦しかったよね。本当につらかったと思います。
「あなたは悪くない!」と法子に言われたことはミカにとって救いだったのだと思います。30年近くの月日が流れてしまったけど、家族とも法子ともあの時のように純粋に良い人間関係を作り上げていってほしいなと思いました。
読んでいてどうなるのかドキドキもしたけど、良い物語でした。
<文藝春秋 2021.6>2021.7.12読了