新訳ペスト
ダニエル・デフォー
興陽館
2020-09-18


見えない死の恐怖が襲いかかる。自粛要請、医療破綻、都市封鎖、地方への脱出。富む人と貧しい人の格差。渦巻くデマとパニック。それでも感染は止まらない。1665年ロンドンを襲った“ペストの大流行”は10万人の死者を出して人々の生活を一変させた。膨大な資料の圧倒的事実から書かれた迫真のドキュメンタリー小説!新訳書き下ろし!

9月に「100分de名著」で取り上げられた「ペストの記憶」を読んでみたいとずっと思っていました。
番組で紹介されたものと出版社も翻訳の方も異なりますが同じ作品です。
1665年にロンドンを襲った感染症のペスト。H.Fという人物がペストが蔓延しているロンドンの状況を記したドキュメンタリー風に書かれた小説です。
このダニエル・デフォーという方は実体験をもとに書かれたのかなと思ったのですが、ペストが流行した時に著者さんは5歳だったようで、大人になってから取材したことを基にしたようです。主人公は伯父さんだという説があるみたいですね。
内容はとにかく悲惨でした。感染症が広がったことによる人々の色んな部分を垣間見た気がしました。小説ですけど実際に体験したかのようなリアルを感じました。1年間の記録だと思うのですがその間の時期が結構とびとびになっていて、これはいつの時?流行はじめ?半ば?終わり?って分からなくなることがよくありました^^;まあそれでもこの時期の悲惨さが分かったのでいいのですが。
当時は「菌」というものが知られていなかったため(のちに北里柴三郎が発見しますよね)「得体のしれない何か」という表現をしています。「菌」というものすら分からなかった時代に、何かがどんどん侵食していき、人を死に至らしめるなんて本当に恐怖ですよね。感染した兆候を見つけると半狂乱になってそのまま亡くなる人も多かったというのも分かります。
死と隣り合わせの毎日だけど、H.Fは市の動きを褒めていました。死者は多かったけど早めに対処していたため、街はいつもきれいだったと書かれていました。市民への対応も早かったと。原因も何もわからない状態で迅速に対応していたというのは大きいですよね。
それにしても、人間の気持ちの部分というのは今も昔も変わらないんだなぁと思いましたね。自分は大丈夫という思い、罹った時の心理、そして気持ちの緩み。特に死者や感染者が多いままなのに横ばいになっていたり、多いままだけど以前より減少したりした場合にもう大丈夫なんだと勝手に解釈して外に繰り出し人が集まるようになったとか、今も同じじゃないかと思いました。神に身を委ねているような信仰の違いはありましたけど。現在のコロナ禍は収束の兆しはありません。ペストは約1年で収束したようですが、今回は終わらなそうです。少し先か遠い未来かにコロナが収束した時に私たちはどういう想いを抱くのだろうかと思ったりしながら読み終えました。

<興陽館 2020.9>2020.11.27読了