フーガはユーガ
伊坂 幸太郎
実業之日本社
2018-11-08


常盤優我は仙台市のファミレスで一人の男に語り出す。双子の弟・風我のこと、決して幸せでなかった子供時代のこと、そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。僕たちは双子で、僕たちは不運で、だけど僕たちは、手強い。

伊坂さん1年ぶりの新刊。
内容を知らずに読みましたが、なんというか…一言では言い表せないです。
色んな出来事が最後に回収される感じはさすが伊坂さんだなと思うし、人と人との出会いも良いなと思いました。
でも、暴力や悪の部分がえげつなすぎて読むのが辛かったところもありました。
小玉の秘密、ワタボコリへのいじめ、そして優我と風我の境遇。
みんな必死で耐えて乗り越えて生きてる。でも、それだけ。こんなに辛い思いをする必要はないです。
優我がとある男に自分の過去の話を始めるところから物語も始まります。
優我と風我の身に起きる1年に1度の瞬間移動。必ず起きるその能力を利用して、2人は人を巻き込んでいきます。それは良い事もあれば悪いこともあって。
悪いことがえげつないですよね…。
優我と風我の性格や喋り方は正反対で読んでいても2人がどちらかわかります。
酷い環境で育った2人だけど、2人だからこそ生き抜くことが出来たんですよね。
語りの途中で優我が出会ったハルコさんとハルタくん。2人と一緒になって幸せになってほしいと思っていたのに…。酷い人間はどこまでも酷かったですね。どうしてあんな男からこんなに立派な2人が生まれたのか不思議なくらい。
この出来事により衝撃の事実が知らされるわけですけど、嘘だろうなと思っていました。最初から優我は男に「わざと嘘をついている部分がある」と言っていましたから。
だからそこまでの衝撃ではなかったけど、最後の章の結末は驚きでした。
切ないというよりは悲しい。ただただ悲しい。
でも、読み終えて色々感想を読んでいたらちょっと救いのようなものもあって。
風我のバイク事故の時、天気は晴れていた。だから死神は来ていなかった。
男と優我が会った日も朝から仙台は晴れていた。だから死神は来ていなかった。
そして「わざと嘘をついている部分がある」さらに風我の一番最後の言葉。
こじつけかもしれないですが、それでも二人は、お互いの身体と心に生きているのだと思ったらまだ救われます。
伊藤という人が言った案山子とか、隻腕なのに右腕だけでストライクを取りまくっていた人、とか、伊坂作品のリンクを感じることも出来て嬉しかったです。

<実業之日本社 2018.11>H31.1.21読了