噛みあわない会話と、ある過去について噛みあわない会話と、ある過去について
著者:辻村 深月
講談社(2018-06-14)
販売元:Amazon.co.jp

“男を感じさせない男友達”ナベちゃんが結婚するという。大学時代の仲間が集まった席で紹介されたナベちゃんの婚約者は、ふるまいも発言も、どこかズレていて…。「ナベちゃんのヨメ」ほか、全4作の切れ味鋭い短編を収録。

収録されている4編を読んで、私は今まで発言したことで誰かを傷つけてはいないだろうか。と思いました。よく言いますよね。いじめていた人は覚えていなくても、いじめられた人は覚えているって。
私はどちらにも属さない傍観する人間だったと思いますけど、少しだけいじめのようなものを受けていたことがありました。そこまで酷くはないけど。結局私を罵っていた同級生は何事もなかったかのように同じ時間を中学まで過ごし、大人になって偶然再会しても全く覚えていないようで、人間関係ってそんなもんだよねーと思ったり。他人なんだから会話も過去も噛み合わないのはまあ当然と言えば当然なんですよね。
「ナベちゃんのヨメ」
始めは主人公たちと同様、ナベちゃんのヨメはやばそうだとか、結婚式の余興の頼み方がおかしいとかナベちゃんは本当にその人で良いのかとか、色々思いましたけど、主人公の言うように、部外者がとやかく言う問題ではないんですよね。実際、ナベちゃんの事は学生時代みんないい人どまりだった。ナベちゃんの気持ちを分かっていつつもはぐらかしていた。悪く言えば甘く見ていた。見下していた。多分それをナベちゃんも気づいていたんだと思う。だから、周りがなんと言おうとナベちゃん夫婦が互いに幸せなら、それはそれで良いんじゃないかなぁと思いました。
「パッとしない子」
美術教師の美穂には、有名人になった教え子がいる。彼の名は高輪佑。国民的アイドルグループの一員だ。しかし、美穂が覚えている小学校時代の彼は、おとなしくて地味な生徒だった。佑と一つだけとある思い出がある美穂は二人で話がしたいと言われて感謝されるのではないかと期待して佑の言葉を待ちます。でも佑から言われた言葉はなかなか辛辣な言葉で見事にしっぺ返しを食らった感じでしたね。佑の言葉の方だけを全部信じるわけではないですが、美穂のような先生ってきっといるだろうなと思いました。私は小学校の先生に関しての思い出はあんまりないですけど、ないってことはわりかし平和だったってことなんでしょうね。確かに有名になってから周りに我が物顔でパッとしない子だったとか言いふらされたら嫌かも。これで美穂はこれからの教師人生が変わったり…はしないだろうな。
「ママ・はは」
「宮辻薬東宮」で既読でした。さらさらっと読み返しましたけど少しホラーですよね。そして何度読んでも成人式の着物のくだりは許せないと思いました。
「早穂とゆかり」
こちらも「パッとしない子」の様にしっぺ返しをくらったような感じでしたね。
最初の同業者との会話でゆかりを悪く言っている雰囲気が嫌でしたね。きっと学生時代もこうだったんだろうなと思うような。早穂は小さい頃から世渡りが上手くて、ヒエラルキーの上位にいるような子だったんでしょうね。そして自分から見て下位にいる子に対して無意識に見下す。
早穂はこれで学習してほしいですね。
私の学生時代はそこまでのピラミッドはなかったと思いますが、それでもいじめまでいかなくてもみんなが見下しているから同じような態度をとっていた子はいたような気がします。いまだにそのことを覚えていて恨まれていたら…そう思ったら少しぞっとしますけど、それでもやっぱり申し訳なかったとも思います。
無意識って怖いですね。そしてたちが悪いです。
この読み終わった後の不快感。辻村作品で久しぶりに感じました。
そうだ、こういうものを書かれる人でした。お見事でした。

<講談社 2018.6>H30.7.14読了