([ほ]4-1)活版印刷三日月堂 (ポプラ文庫)([ほ]4-1)活版印刷三日月堂 (ポプラ文庫)
著者:ほしお さなえ
ポプラ社(2016-06-03)
販売元:Amazon.co.jp

川越の街の片隅に佇む印刷所・三日月堂。店主が亡くなり、長らく空き家になっていた三日月堂だが、店主の孫娘・弓子が川越に帰ってきたことで営業を再開する。三日月堂が営むのは昔ながらの活版印刷。活字を拾い、依頼に応じて一枚一枚手作業で言葉を印刷する。そんな三日月堂には色んな悩みを抱えたお客が訪れ、活字と言葉の温かみによって心が解きほぐされていくのだが、弓子もどうやら事情を抱えているようで――。

4編からなる連作短編集です。初読みの作家さんだったのですがタイトルに惹かれました。
活版印刷と聞くと私はまず「銀河鉄道の夜」を思い浮かべました。ジョバンニが家計を支えるために働いていた場所。「これだけお願いできるかね?」と店主に1枚の紙を渡され,
活字を拾っていく。その印象が強いです。(頭の中はどうしてもジョバンニは猫)
と思ったら、この作品の中でもその話題が出てきてましたね。ちょっと嬉しい。
「世界は森」早くに夫を亡くし女手一つで息子森太郎を育ててきた川越運送店一番街営業所所長のハル。その息子が春から北海道の大学へ行くことになり、寂しさを感じていた。そんな時に久しぶりに再会した三日月堂の孫弓子。祖父母が営んでいた印刷所に住むことになったのだそう。パートとして運送店で働くことになった。
ハルさんがとてもいい人だということが伝わってきます。周りの人たちも素敵ですね。息子さんへの想いも温かくて優しくて。息子さんへ宛てた手紙とプレゼント。もう何も言わなくても息子さんはちゃんとわかっているだろうなとは思いましたけど、でも最後は本当に良かったです。
「八月のコースター」伯父が営んでいた「桐一葉」という喫茶店を継ぐことになった岡野。何とか営業は出来ているが自信を持てないでいた。
最初は頼りない岡野青年だったけど、何か新しいことをと始めた物は私も凄く良いなと思ったし、私も近くにお店があったら行ってみたいと思いました。
「星たちの栞」遠田は学校の先生。喫茶店の店主に教えてもらった活版印刷のお店の事を部活動の生徒に言うと興味を持ち、文化祭でワークショップを行うことになる。
高校生の小枝と侑加が眩しかったですね。遠田先生もそう思っていたんだろうな。そして、自分の大学時代に関わった友人の事も思い出していて。過去に抱えていた想いをこの機会を通して吐き出すことが出来て良かったと思いました。
「ひとつだけの活字」結婚を控えた雪乃は祖母が持っていた活字を受け継いで持っていた。高校の学園祭で活版印刷のワークショップを見たことがきっかけで、結婚式の招待状に祖母の活字を使うことが出来ないか、印刷所の弓子に相談することにした。
このお話で、弓子の過去が明らかになりましたね。きっと何かあるんだろうなと思いましたけど、切ないなぁ。でも、今たくさんの人たちに囲まれて幸せなんじゃないかなと思いました。最後の最後のお店の雰囲気なんて本当に素敵で、何だか涙が出そうになりました。天国にいる家族もきっと喜んでいると思います。雪乃と友明のカップルも良かったな〜。
幸せな気持ちになって読み終えました。
やっぱりこういうテーマの本好きです^^

<ポプラ社 2016.6>H28.12.13読了