あのひとは蜘蛛を潰せないあのひとは蜘蛛を潰せない
著者:彩瀬 まる
新潮社(2013-03-22)
販売元:Amazon.co.jp

私って「かわいそう」だったの? 「女による女のためのR‐ 18文学賞」受賞第一作! ずっと穏やかに暮らしてきた28歳の梨枝が、勤務先のアルバイト大学生・三葉と恋に落ちた。初めて自分で買ったカーテン、彼と食べるささやかな晩ごはん。なのに思いはすぐに溢れ、一人暮らしの小さな部屋をむしばんでいく。ひとりぼっちを抱えた人々の揺れ動きを繊細に描きだし、ひとすじの光を見せてくれる長編小説。

初読み作家さんです。厳密にいうと初じゃないのですが…。
以前雑誌に書かれていた東日本大震災が起きた時、ちょうど旅行で東北に行かれていたそうでそのルポを読んだことがありました。
それで名前は覚えていたということと「女による女のためのR‐18文学賞」は確か大好きな作家さんの宮木さんも受賞された賞だからきっと私が好きな文章なはず!と思い、手に取りました。
思った通りでした。するすると文章がしみ込んでいきました。彩瀬さんの作品好きです。
でも、始めは読むのを止めたくなるくらい辛かったです。それは自分に当てはまるところがたくさんあったからということと、同じ年齢の主人公で周りの環境が似ていたから。
父親がおらず、兄は出ていき、28歳になった今でも実家で母と2人で暮らしている。母のいう事は絶対で逆らうことが出来ず、結局言い返せないから喧嘩にならない。
私の母親はここまでではないし、私は喧嘩にならないまでも言い返すからこの2人でもないけど、でも分かる部分がたくさんありました。母親を悲しませることはしないし、言われたことは大体守る。何かあったら母親に相談して母親がそう言ったから安心してそうしたりして。
だから、今はそこまでではないけど、自分の意見を言うっていうのがなかなか出来なかったり、人の意見を聞いて一緒だったり確認してもらって一緒だったら安心するっていう気持ちが凄くよく分かりました。
梨枝が自分と葛藤している姿は自分を見ているようでした。彼氏や同僚に対して嫌われないようにとりあえず謝ったり羽目を外さないようにしたり、良い子を演じていると言われたら言い返せない、そんな感じが。上手く甘えることが出来なくて変な形での愛情表現しかできないとか。第三者から見ればそんなに難しく考えなくていいのにって思うのだけど、本人にとっては必死で。で、空回りして自分が想像する自分の姿と相手が見る自分の姿が違ったり。自分なりに頑張っていると思ってるからショックですよね。
だから梨枝が少しずつ変わっていく姿は読んでいて微笑ましく感じました。28歳だろうと何だろうと、変わろうと思ったらいくらでも変われるんですよね。この作品でも書かれているし、私もなるべくそう考えようと思っているのだけどどうしようどうしようと思っている事って大抵は何とかなるんですよね。そうやって少しでもいろんな物事を軽く優しく考えられたら良いなと思いました。三葉君との関係は最初痛々しくも感じましたが、最後は良いカップルにちゃんと見えましたし、バファリン女ともちゃんと仲良くなれるような気がして安心しました。
読んでよかったです。また彩瀬さんの作品を読みたいと思います。

〈新潮社 2013.3〉H25.4.30読了