あやかし草子 みやこのおはなしあやかし草子 みやこのおはなし
著者:千早 茜
徳間書店(2011-08-26)
販売元:Amazon.co.jp
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「鬼の笛」妾の子として生まれ、母親にも捨てられた男は父の才能を継ぎ、笛を吹く技術だけは長けていた。同じように笛を吹いていると鬼がやってくる。鬼に気に入られ、やがて鬼は嫁を取れと一人の女性を連れてくる。しかしその女性は人間として不完全で100日待てと言う。
「和尚ムジナ」古ムジナは和尚に化けて寺に住み着くようになる。村人からも好かれるようになり、人望も厚くなってきた。しかし、涙を流すと言う感情だけは理解できない。あるとき、一人の女の子が寺へやってきて、何かと和尚の世話を焼くようになる。
「天つ姫」不審者に襲われそうになってから心に傷を負った姫。外を徘徊していると天狗と出会い、一緒に時間を過ごすようになる。しかし、天狗は自分と同じように年を取らないと気づいた姫は天狗と別れ、帝の后になった。
「真向きの龍」旱魃に悩む村から龍を彫ってほしいと頼まれた男はその村へ向かう。実際に見たものしか彫れないという男は案内人に連れられ、龍がいると言う淵へ向かう。すると、そこで蛇の女性に出会う。
「青竹に庵る」吉弥は親に捨てられ、人を信じることがない少年に育った。強盗を抜けようとした吉弥は命の危険にさらされる。そこで金色の観音様に助けられ、庵にかくまわれるが、助けてくれたのは母親だった。
「機尋」染屋の柳に育てられた紅は柳とともに織屋の留造の元へ行くことになった。紅が織物を見ているといつの間にか違う場所へいて・・・

千早さんの新刊。また千早さんが書かれる幻想的な物語を堪能しました。
御伽噺という言葉が似合う作品集でした。どれもちょっと昔の日本のように感じます。
「鬼の笛」鬼と出会ったことで良い方向へ向かうのかと思ったら、そういうことではなかったんですね。孤独だった青年と人形のような女性の末路は何となく想像が出来ていたので最後は悲しかったです。青年は自分で選んだわけだけど、それで幸せだと思えるのかな。青年は生まれた時から自分が選んだわけではないのに悲しい境遇で、幸せになってほしかったなと思う。
「和尚ムジナ」古ムジナが和尚になってどのような展開になって行くのだろうと思っていたのですが、古ムジナと女の子のぎこちない関係が可愛らしく感じました。振るムジナを本当に理解しようとしていた女の子。2人の最後はとても悲しかったです。
「天つ姫」始めこの姫はワガママな姫なのかと思っていたのだけど、心に闇を秘めていたんですね。天狗と関わっている間はとても幸せそうに見えました。だから、天狗のために帝の后になることを選んだわけだけど、もっと素直になってよかったと思う。この作品も最後が切なかった。でも、2人はこれから一緒にいられるのだから、離れ離れになるよりはいいの・・・かなぁ?
「間向きの龍」蛇の女性が擦り寄ってくるところは読んでいて怖かったのだけど、でも動じない男も怖かった。男は人の道を選んでよかった。この男の末路は人として人並みの幸せを掴んだんじゃないかなと勝手に思う。
「青竹に庵る」吉弥の境遇があまりにも可哀相だった。だから、今までは不幸だったけどちゃんと人を信じられるようになって人として幸せになってほしいなと思ってた。だから、良い最後だったのかな。最後の吉弥の台詞が感動。お母さんじゃないのに。
「機尋」この作品が1番ハッピーエンドっていえたかな。紅が織物にかける想いが切なくて可愛らしくてジーンとしちゃいました。紅と柳が始め親子のようだと思ったんだけど、だんだん恋人同士のように見えてきた^^;紅がちゃんと柳の元へ帰ると選択してくれてよかった。

<徳間書店 2011.8>H23.9.28読了