この女この女
著者:森 絵都
筑摩書房(2011-05-11)
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震災後15年して見つかった小説。そこにはある青年と彼の人生を変えた女の姿が。釜ヶ崎の地をめぐる陰謀に立ち向かう彼は、小説の作者でもあった。冒険恋愛小説。
甲坂礼司、釜ヶ崎で働く青年。二谷結子を主人公に小説を書いてくれと頼まれる。二谷結子、二谷啓太の妻。神戸・三宮のホテルに一人で住み、つかみ所がない女。二谷啓太、チープ・ルネッサンスを標榜するホテルチェーンのオーナー。小説の依頼主。大輔、甲坂礼司に小説書きのバイト話を持ってきた大学生。礼司に神戸の住まいを提供。松ちゃん、釜ヶ崎の名物男。礼司が頼りにし、なにかと相談するおっちゃん。敦、二谷結子の弟。興信所経営。結子のためなら何でもする直情型の気のいい男。震災前夜、神戸と大阪を舞台に繰り広げられる冒険恋愛小説。3年ぶり、著者の新境地を開く渾身の長篇書き下ろし。

ネタバレあります

森さんの長編書下ろしって3年ぶりなんですね。確かに久しぶりだったかも。
新境地かはよく分からなかったけど、面白かったです。
始めは変な話だと思っていたんです。奥さんを主人公とした小説を書いてほしい。前金で100万を渡す。そして完成したらさらに200万。何か裏があるとしか思えません。
案の定依頼者の二谷は始めは気のいい叔父さんって言う感じだったけど、だんだん極悪になっていった気がします。
そして主人公である二谷の妻結子。一癖も二癖もある変わった女性でした。
始めは適当な人なんだと思ってイライラしていたのですが、だんだん本性や結子の過去が分かってくると、愛おしくなってくるから不思議です。
礼司も始めは実態の掴めない男だったのですが、小説の出来具合は本物だし、結構まっすぐで熱い男なんじゃないかなと思ってきました。
最後の最後に礼司の諸々の秘密が明らかとなりますが、結子と一緒だったら、その秘密も些細な事に感じるから不思議です。
冒頭で誰かが誰かに送っている手紙で、舞台となる時代の15年後と言う事が分かります。そして、甲坂礼司という青年が15年前から行方不明だということもそこに書かれています。初めに読んだときはふーんとしか思わなかったけど、読んでいくうちにどうなってしまうのかが何となく分かってしまうので、終わりが近づくにつれて切なくなってきました。
また、この小説は1995年の世相も上手く描かれていると思います。
私は95年の1月は小学校4年生でした。94年の事は全然覚えていないのに、95年のことってもの凄く覚えているんです。
1月のある日、朝目が覚めてテレビを見たら、戦争の空襲のように火事が広がっている映像を見ました。3月には地下鉄の映像が流れ、たくさんの人がガスマスクをしている姿を見ました。ここは戦争もない一応平和な日本のはずなのに、一体何が起こっているのだろうと小学生ながらに怖かった思い出があります。
その頃の事を、少し思い出す作品でもありました。
最後はとても中途半端な形で終わりますが、私は礼司も結子も無事で、2人は東京へ行き、彼らなりの幸せを掴んでいると信じています。
2人は今まで苦労してきたんですから、報われなきゃいけないと思います。

〈筑摩書房 2011.5〉H23.6.1読了