ツリーハウスツリーハウス
著者:角田 光代
文藝春秋(2010-10-15)
販売元:Amazon.co.jp
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謎多き祖父の戸籍──祖母の予期せぬ“帰郷”から隠された過去への旅が始まった。満州、そして新宿。熱く胸に迫る翡翠飯店三代記。

この本、4ヶ月前くらいに1度手元に来たのですが、読みきれずに返却してしまったんです。予約者がとても多かったので、ようやく回ってきて読みました。
面白かったです。
親子三代の歴史。泰造とヤエの満州での生活に、逃亡してからの日本の生活、本当に生きていくために必死で働いたという事が伝わってきます。
満州での生活や日本へ逃げるのは大変だったという事は、母が若い頃に買った漫画を小さい頃に読んでいて、何となくですが知っていました。
でも、それで命からがら日本へ帰ってきて、一生懸命働いて4人の子どもを育てていたのに、4人の子供達も、慎之輔の子供達も、何だかだらーっとして好きになれませんでした。あんなに苦労して育ててくれているのに、皆家を出たいと思っていて違う過程を気付いて行きたいといって。親不孝ものたちめ〜って思っていたのですが。
でも、良嗣と同様にこの家族の独特の雰囲気が不思議でした。
ちゃんと働いている人が少なくて、それでも小言を全く言わないわけではないけど、そこまで強く言わないし。
まあ、それは後で理由が分かるのだけど。
お祖母さんと良嗣と太二郎が旧満州へ行って、やはり何かが変わったのかな。
おばあさんの最後の言葉が全てだったのかなと思う。
「私たちは抗うために逃げた。生きるために逃げたんだ。でも今はそんな時代じゃない。逃げるってのはオイソレと受け入れることになった。それしかできないような大人になっちまった。だからあんたたちも、逃げるしか出来ない。それは申し訳ないと思うよ。それしか教えられる事、なかったんだからね。」
私もここを読んでいて、なるほどと思いました。
この家族が何だか好きになれない理由。それはどんな状況でも窮地になったら「逃げて」いたからなのかなと。私は・・・っていうか普通社会人になったら「逃げる」んじゃなくて逆に「立ち向かって」いくと思うので、だから早々と逃げ出すこの一家が好きじゃなかったのかなと^^;
でも、戦前から現代までもの凄く長い時代を読んできて、読み終えたときは読んだっていう充実感がありました。
自分がリアルに覚えているのは良嗣が学生になったあたりかなぁ。1980年生まれらしいので、世代的には似てますし。私も、95年って変な年だと思っていました。小学校4年生と5年生の年。阪神大震災も覚えていますし、地下鉄サリン事件も覚えています。あの頃って情報番組の内容がほぼ全てオウム真理教の話題でしたよね。あの教祖の歌を歌っている友達がいて「歌うのやめなよ」と私が言ったらその子は「なんで?皆歌ってるよ?」といってやめなかったことがあるんです。あれは子どもながらに人がマインドコントロールされてるような恐怖を感じた記憶があります。
半世紀以上もの長い時代をこうやってまとめられて、凄いですね。
角田さんの作品ってそこまでたくさん読んでいないのですが、新境地ですよね。
面白かったです。良嗣の今後がとても楽しみですね^^

〈文芸春秋 2010.10〉H23.4.28読了