夏目家順路夏目家順路
著者:朝倉 かすみ
文藝春秋(2010-10)
販売元:Amazon.co.jp
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夏目清茂七十四歳、本日脳梗塞のためめでたく昇天いたしました。「どこにでもいるただひとり」の男の一生を、一代記とは異なる形で描いた傑作長編小説。

面白かったです。亡くなった人の話を書いているのに、面白いっていうのは不謹慎かもしれませんが。
始めは夏目清茂という人物の人生について書かれているのですが、だんだんその家族の目線で清茂の死を通して自分を見つめなおしていくんですよね。
清茂自身の人生は、どこにでもいるよりは不幸な境遇だったのだと思う。両親はいなくて、兄弟に育てられて同い年の甥がいて。生活はしにくかったと思う。
そして札幌へ就職して修行して働くも雇い主からお金は払われないし。
良く腐らずに生きてきたなと思います。いや、奥さんが愛人を作って出て行った時はそうだったか。
清茂は、死の淵を彷徨っている時に、生きていて良かったと思っていたのだろうか。
それだけが気にかかります。でも、死の直前に想った人は、立派になって通夜に来てくれたのだから、良かったのかなと思う。
素子はちょっといただけないなぁと思ったのだけど、旦那がしたことは私は許さない。
奥さんも許さない。同情での結婚なら最初からしなければいい。
孫が1番ちゃんと冷静な目を持っていたのかもしれない。おじいちゃんだから話を聞いてあげようって、両親が思っているような感じではなくて、ただ、ひとりの人と会話をしているように感じたといいますか・・・。
上手く説明できませんが。
でも、通夜や告別式の様子をもうちょっと書いて欲しかったなと思った。
多分、たくさんの人が来てくれたのだと思うけど、その風景が浮かばなかったのだけ少し残念。

〈文芸春秋 2010.10〉H22.11.15読了