天国旅行
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そこへ行けば、救われるのか。富士の樹海に現れた男の導き、死んだ彼女と暮らす若者の迷い、命懸けで結ばれた相手への遺言、前世を信じる女の黒い夢、一家心中で生き残った男の記憶…光と望みを探る七つの傑作短篇。
「森の奥」
樹海で明男は目を覚ました。首がひりひりする。自分は自殺に失敗したようだった。目の前には青木と言う若い青年が立っていた。
「遺言」
妻に何度も言われた。「やっぱりあのとき死んでおけばよかったんですよ」と言う言葉。身分の違いから駆け落ちをし、何度も死に直面した。昔の事を、思い出す。
「初盆の客」
学生の子達が変わった昔話や言い伝えを調べにやってきた。私は自分の身に起きた不思議な話をする。ウメばあさんの初盆に見知らぬ男がやってきた。名前を聞いてもピンとこない。彼は、私とは従兄弟なのだ。ウメばあさんが戦争前に結婚した男性の孫なのだと言う。
「君は夜」
昔から、夢はもう一つの世界なのだと思っていた。理紗は夢の中では江戸時代におり、お吉と呼ばれていた。小平という男と貧乏ながらも幸せな日々を過ごしていた。
「炎」
私はいつも、同じバスで憧れの立木先輩を見つめていた。付き合いたいわけではない。ただ、見つめているだけで幸せだった。しかし、先輩は突然焼身自殺を図り、死んでしまう。なぜ、先輩は死ななければならなかったのか。先輩の彼女だった初音と共に調査を始める。
「星くずドライブ」
僕は、香那が死んでいる事に暫く気付かなかった。僕は、この世にいないものが昔から見える人間だった。香那は何者かにひき逃げされ、遺体すら見つからなかった。なぜ、香那はここにいるのだろう。
「SINK」
悦也は金属造形を仕事としている。一家心中の生き残りで、祖父に育てられた。そのせいか、悦也は人と関わる事が出来ないでいる。友人は幼馴染の悠助だけ。しかし、悠助のことは昔から好きではなかった。
しをんさんの新刊。短編集です。
「心中」をテーマに書かれている本だということは知っていたので、気合を入れてから読みましたが、やはりきつかったです。
必ず「死」がまとわりついてくるので、どこか気持ちが悪くて暗くなるような。そんな話でした。
でも、いろんな「死」の形があり、「愛」の形がありました。
どの作品も、必ず死が関わってきますが、愛についても描かれています。
それが、良かったり悪かったり怖かったり。
「君は夜」の根岸なんて最低です。自分の事ばかり可愛くて、多分奥さんの事も子供の事も理紗の事もちゃんとなんて考えていない。酷い男でした。
逆に「星くずドライブ」の佐々木君には、香那への深い愛情を感じました。でも、この状態はいつまで続くのでしょう。きっと、ものすごく辛い事でもあるのだと思う。
「SINK」もヘビーでしたけど、ラストが前向きで好きです。多分、それであっているのだと思います。深い深い、愛情を感じました。
〈新潮社 2010.3〉H22.6.17読了
なかなかすごい短編集でしたね。
三浦しをんはやっぱり
たくさんの引き出しを持つ
凄い作家だなぁと改めて思いました。
私は『君は夜』がすごく好きで
もし自分がああいう夢を見続けたら・・・と
考えるだけで怖かったです