猫を抱いて象と泳ぐ
猫を抱いて象と泳ぐ
伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。
触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…大切な人にそっと囁きかけたくなる物語です。

心温まる、少し物悲しい作品でした。
インディアという、デパートの屋上に閉じ込められてしまった象を思い、壁に挟まり動けなくなった少女ミイラと話して過ごす少年。
少年は祖父母と弟と細長い家に住んでいる。
少年は小学校のプールで青年の亡骸を発見する。
青年を見つけたことで、バスに住む大きな身体のマスターと出会う。
マスターとの出会いからチェスを知り、チェスと一体化する人生を歩み始める。
少年のチェスは真っ直ぐで純粋。対局したすべての人の心に残る。
少年の名前は最後まで分からず、チェスで伝説を残してからはずっとリトル・アリョーヒンと呼ばれている。
名前や年齢が分からないから、更に幻想的でどこか非現実的な世界が生まれたんだと思います。
「大きくなる事は悲劇」マスターの事があったから、リトル・アリョーヒンは大きくなる事を拒んだけど、小さな身体が尚更切なかったなぁ。
小さい体じゃなきゃ、出来ない仕事だったのだけど。
彼の最期は本当にチェスを愛していて、チェスを愛する人を愛しているから起こってしまった末路なのかな。
思わず、ほろりとしてしまいました。
少年はちょっと不器用な人生だったけど、たくさんの人と出会えて良かったね。
老婆令嬢との対局が好きでしたし、老婆令嬢にチェスを教え、「あなたはチェスを教えるのが上手ね」という台詞が温かかったです。
でも、最後に2人には、再会してほしかったなぁ…。
ずっと1行の手紙を交わしていて、やっと言葉が交わせると思ってたのに。
もどかしかったです。

〈文芸春秋 2009.1〉H21.6.24読了