儚い羊たちの祝宴
儚い羊たちの祝宴
「身内に不幸がありまして」
村里夕日は孤児院で育ち、5歳の時に丹山家に引き取られる。丹山因陽の娘、吹子に仕える事になった。夕日は吹子に命ぜられ、秘密の本棚を作る。その棚に納められている本を借り、夕日は本の虜になる。丹山家には長男がいた。勘当されていたが、実家に戻り、暴れだす。夕日と吹子は暴れる長男を止め、右手を切り落とし、死んだと知らせる。それからと言うもの、長男が死んだとされる日に、丹山家に関わる人間が次々と死んでいく。夕日は自分が寝ている間に殺してしまっているのではないかと悩む。
「北の館の罪人」
六網家の応接間には不思議な絵が飾られている。全てが青に染められ、空だけが紫色。誰もが疑問を投げかけるが、当主の光次は笑って返すばかり。内名あまりは六網家の妾の子である。母が亡くなり、ここに住む事になった。しかし住むのは「離れ」と呼ばれる北の館。そこには先客がいた。長男の早太郎である。
「山荘秘聞」
飛鶏館で過ごす事になったわたし。辰野様の別荘だが奥様が亡くなり、思い出の地であるここはご主人様にとって辛い場所となり、1年を過ぎても誰も訪れてこない。ある日、雪山で遭難した越智靖巳を助ける。次の日、越智を捜索する人々が訪れる。彼らを招き入れるが、屋島は越智を助けた事を告げずに客人たちをもてなす。
「玉野五十鈴の誉れ」
小栗家は祖母に支配されている。純香は感情を失った母と頼りない婿養子の父と祖母に怯えながら暮らしていた。15になったとき、自分に使用人がついた。それが五十鈴だった。五十鈴と一緒にいる事が何よりも嬉しく楽しい時間だった。大学に入るのを許してもらい、五十鈴とともに実家を離れる。しかし、小栗家を揺るがす大きな事件が起こり、純香は実家に呼び戻され、離れに軟禁される。母は再婚し、息子をもうけ、純香は必要のない人間となった。
「儚い羊たちの晩餐」
荒れ果てたサンルームに1冊の本が置かれている。最初の頁に走り書きが残っている。「バベルの会はこうして消滅した。」日記を書いた人物大寺鞠絵はバベルの会から除名された。会費を払わなかったからである。成金になった父があえて払わなかったのだと分かっていた。父は成金になったからと厨娘を雇う。それが夏だった。夏はいつも大量の食材を買い込み、作った後にお心付けを請求する。父は強がっているが、その価値がわからなかった。鞠絵は何とか除名を免れたく、会長に再度頼みに行った。しかし、会長は「バベルの会があなたには必要ない」と告げる。鞠絵は夏に「アミルスタン羊」を使った料理を頼む。

ぞくっとする作品でした。どの作品も最後に意外なラストが待っています。
どの作品にも「バベルの会」に属した人間が関わってきます。「バベルの会」に関わっている人間達は大きな名家の者ばかりが揃う。ただ読書会をする場ではなく、幻想と現実とが混乱してしまう儚いものたちへの聖域。名家に生まれたからこその悩みや葛藤を癒す場所…なのかな。一種のシェルターのような・・・。
しかし、どの作品も人が物のようだ。簡単に人を殺すし痛めつけるし。特に純香の祖母は酷い。息子が死んでしまうけど、死んでしまった場所を考えると、事故とも捕らえられるけど、私はもしかしたら五十鈴がやったんじゃないかなとも思う。
ゴミの処理は五十鈴がしていたんだし。だったら良いなと思う。純香と過ごした日々は、命を受けたからではなく、友達だと思っていたからだと思いたい。
でも、本当に米澤さんはミステリがお好きなんですね。きっとクマグスといわれるくらい^^;
聞いた事のない作家さんの名前がずらり。
私、この作品を読んで、江戸川乱歩の名前はエドガー・アラン・ポーからとったって初めて知ったよ…。まだまだ未熟だ。
これからも米澤さんにはついていきたい。
とりあえず、今年中に「小市民」シリーズを読みます。ずっと前から持ってるのにもったいなくて未だに未読…。

〈新潮社 2008.11〉H21.2.8読了