遥かなる水の音
クチコミを見る
「僕が死んだら、遺灰をサハラに撒いてほしい」
パリの旅行代理店に勤める緋沙子は、若くして逝った弟の遺言を叶えるため、モロッコを旅することになる。
同行者は、弟の友人だった浩介・結衣という若いカップルと、中年のフランス人男性。資産家の彼はゲイであり、晩年の弟と同居していた。
互いを理解できないままに、さまざまな事情を抱えながら、4人は異国を旅する。
ムスリムのガイド・サイードも加わり、異文化に触れていくなかで4人は徐々に、互いの抱える問題や思いに気がついていく。
そんな折、仕事のトラブルから浩介がパリに戻ることになり・・・。
魂の拠りどころを求めて彷徨う男女の姿を通じて、同性愛、姉弟の愛など多様な愛のかたちを描いた意欲作。
ネタバレあります
村山さんの作品はほんっとうに久しぶり。読むのは4年ぶりでした。
別に避けていたわけではないんですけども。気付いたらそんなに経っていたって言う感じ。
この作品は、とても綺麗な作品でした。
言葉も、この旅自体も、周という青年も、サハラまでの道のりの出来事も、みんな。
でも、始めはジャン=クロードの事が嫌いだった。緋沙子に対する憎まれ口がイライラして。浩介も嫌いだった。結衣の想いを踏みにじっているような気がして。
読み終えた後は、そんな事は全く思わなくなってました。
自分の身も財産も何もかも全て捧げようと思っていた人に先立たれるのは、どんな気持ちなのか。私には想像できない。
ジャン=クロードの、最大の強がりだったんですよね。
本当に、ほんっとうに周の事を愛していたんだという事が伝わってきました。読み終えた後は、彼のその憎まれ口が、痛々しくて切なく感じました。
浩介が登場した段階で、周にとってどんな人か、想像がついたけど、こやつは絶対に気付かなそうだなと思いました^^;
結衣は気付いているだろうなと思ったら、やっぱり気付いていた。
周は、死んでからも後悔していたけど、浩介はともかく、結衣には伝えても良かったんじゃないかなと思いました。
そんな事を言っても、何もかもが遅いのだけど。
ハールーンという男性が、ほんの少ししか出てこないけど、印象的でした。
この人も素敵だけど、周が、死んでしまった弟に対する言葉がとても印象的。事実を言ったまでなのかもしれないけど、ハールーンはかなり、救われたんじゃないかな。
周の病気は、性病だったのかな。
病気については明らかにされていないけど、そんな気がする。
周は素晴らしい人。若くして亡くなってしまった事が悔やまれてならない。
そしてもう手遅れだけど、想いを愛する人に告げて欲しかったと思わずにはいられない。
〈集英社 2009.11〉H22.5.19読了