井上ひさし最初の偽評伝「二代目藪原検校」の戯曲化。「東北生まれの盲の 少年が晴眼者に伍して生きて行こうとしたときに、彼の武器は何か?」という自身の問いに「悪事しかない!」という声にこたえていた・・・あとがきより・・・悪事の数々を重ねて、笑って死んでいった一人の東北生まれの「検校」まで成り上がった男の生涯を笑いと歌で綴るピカレスクドラマ。初演の時にじょんがら節風にギターを弾いたのは作者の実兄井上滋氏。初演「西武劇場オープニング記念・井上ひさし作品シリーズ」その一として上演。演出木村光一・出演・高橋長英、太一喜和子、財津一郎、檜よしえ、田代美恵子、阿部寿美子。
2月に上演予定の舞台の戯曲です。私が読んだのは1974年3月に刊行された単行本でした。(単行本は画像がなかった)何度か上演されているそうですが初演の時のギターを弾いていたのは井上ひさしさんの実兄だったというのは驚きました。
こういう表現を言うのは失礼かもしれないけど読んでいて「鉈切り丸」の範頼を思い出しました。
人と違う障害を持ち、周りの人たちを蹴落として、犠牲にして前へ前へ、上へ上へ向かっていく姿。
読んでいて切なくなりましたね。盲という障害と抱えて、たくさんの差別を受けてきたのだと思うけど、ここまでして名誉が欲しいのかと。
そして塙保己一はさらに一枚上手というか、聡明だからこそ杉の市とは異なった生き方をして上へ上へと向かっていく。保己一の方が闇を抱えていて残虐な気がしました。いや、どっちも同じかな。生き方が違い過ぎるから比べられないけど。
戯曲も面白かったです。難しい言葉も文章もたくさんあったけど、面白かったです。
どうか誰も欠けることなく、無事に幕が開きますように。
私も、堂々と観劇に行くことが出来ますように。そう願ってやみません。
<新潮社 1974.3>2020.1.8読了