生き延びましょう。私たちらしく生きられる世が訪れるまで。昭和初期、女工の絵子は、福井に開業した百貨店の「少女歌劇団」の脚本係をすることに。出会ったのは“看板女優”の“少年”だった―。一途な少女の淡い恋と、自我の目覚めを描く長編小説。
ツイッターで新井さんが紹介されているのを拝見して気になったので読みました。
初読み作家さんです。
舞台は大正から昭和にかけての時代の福井県。
女性の人権がまだ認められていない頃。貧しい農村で育った絵子は本が大好きで裕福な旅籠屋の娘まい子から本を借りることを楽しみにしている子だった。でも、本を読むことを親はいい顔をしない。女に学はいらないと思っているから。その当たり前のような風潮に反発し父親から家を追い出されます。
そして女工となり、福井に大きな百貨店が出来ることを知って雇ってほしいと直談判をします。その百貨店に後に少女歌劇団が出来、絵子はそこでキヨという「看板女優」に出会います。
これは史実なんですよね。福井に百貨店が出来て少女歌劇団があったということに驚きました。戦前にこんな世界があったんですね。それでも戦争が始まって巻き込まれていくのが悲しくて切なかったです。作中で敦賀港に海外から戦火を追われ逃げてきた外国人たちが多くいるということが書かれていました。そうだ、敦賀港はリトアニア領事だった杉原千畝の「命のビザ」を得た何千人ものユダヤ人難民がシベリア鉄道経由で到来した港でした。物語の中に歴史で知ったことが出てくると改めて実際に起きたことなんだと思わされます。当たり前の事なんですけど…。
福井も空襲に遭い、絵子が働いていた百貨店も焼失してしまいます。
朝子が最後に語った「生き延びましょう」という言葉が強く心に刻まれた気がします。
絵子はたくさん悩んで迷うのだけど、それでも信念を貫き、戦後に強く生きていこうと決意する姿がかっこよかったです。いつの日かキヨと再会することが出来ますように。
<集英社 2019.12>2020.7.24読了