神様の暇つぶし
千早 茜
文藝春秋
2019-07-19


オススメ!
きつい目に大柄な身体、恋愛なんて私には似合わない。そんな二十歳の藤子に恋を与え奪ったのは死んだ父より年の離れた写真家だった。

不思議な作品でした。読み終えた後に余韻が残っています。
里見が言っていたように人は自分の恋愛が一番美しいと思っている。人から見たらそれが気持ち悪いのだとしても。恋というのは理屈じゃないと思います。好きになってしまう衝動はきっと止められない。
藤子は父を喪い、恋愛というもの自体に嫌悪感を抱いていましたが、父親よりも年の離れた写真家、広瀬全と出会い、ひと夏を共に過ごしたことで大きく変わっていきます。藤子は若さゆえに純粋で真っすぐで傷つきやすくて。それが広瀬にとっては眩しかったんだろうと思います。
広瀬はなぜ10年以上会っていなかった藤子の元へ行ったのでしょうか。藤子の父親と会うことが目的だったのだとしても。でも、それは本人にしかきっとわからないことで。
藤子がみるみる変わっていき、綺麗になっていく姿は読んでいても感じました。サナギが蝶に変わっていくような。生のエネルギーに満ち溢れている藤子を見て、広瀬が写真家として一人の男として足搔きたかったのでしょうか。
色々あったのだと思いますが、私はこの2人の出会いを羨ましく思いました。周りが何と言おうと、2人の関係は2人だけのものです。
生と死、全という人物の善悪、すべてが紙一重というか、読んでいる人によって感じ方は様々なんじゃないかなと思いました。千早さんの濃厚な作品を堪能出来て幸せでした。

<文藝春秋 2019.7>2019.9.2読了