さらさら流るさらさら流る
著者:柚木 麻子
双葉社(2017-08-17)
販売元:Amazon.co.jp

あの人の内部には、淀んだ流れがあった―。28歳の井出菫は、かつて恋人に撮影を許したヌード写真が、ネットにアップされていることを偶然発見する。その恋人、垂井光晴は菫の家族や仲間の前では見せないが、どこか不安定な危うさを秘めており、ついていけなくなった菫から別れを告げた。しかし、なぜ6年も前の写真が出回るのか。苦しみの中、菫は光晴との付き合いを思い起こす。初めて意識したのは、二人して渋谷から暗渠を辿って帰った夜だった…。菫の懊悩と不安をすくいとりながら、逆境に立ち向かうしなやかな姿に眼差しを注ぐ、清々しい余韻の会心作。

あらすじを読んだだけで読むのが怖いというか読むことに対して怖気づいてしまったのですが読みました。作品の中のテーマであるリベンジポルノは結構ニュースでも取り上げられていますよね。
撮る方も悪いが撮らせる方も悪い。そういう言い方もされていますが、だからと言ってその写真を他人が勝手にばら撒いていいはずがありません。私は撮らせたくないし今だったら嫌だと言えると思うけど、それでももしかしたら大学生の頃に好きな人に頼まれたら、嫌でも断れなかったかもしれないな…と思ったりもしました。その人に嫌われたくないから嫌々でもやってしまう。その心理に付け込んでいるような感じが嫌でしたね。
菫は良い意味で周りに守られて生きてきたんでしょうね。友人の百合も両親も弟も、みんな菫のことが大事で大好きなんだなというのが伝わってきて読んでいるこちらも羨ましいと思うくらいでした。
そんな優しい温かい家庭に入り込んでしまった複雑な家庭環境の中で育った光晴は何とも言えない気持ちになったのは分かりますけど、でもそれと菫の家庭環境は関係ないですからね。
「過去に辛いことがあったのかもしれないけど、そんなの、私のせいでも、まして彼女のせいでもないですよね?」という、同僚の言葉に凄く同意しました。ホント全くその通り。自分の不満を人に最悪の形でぶつけないでほしいです。
にしてもその流出のきっかけとなった現場、最低ですね。光晴の言動も最低だし周りの男たちも最低です。私、大人数の飲み会の場って大嫌いなんです。特に酔っぱらって横柄な人が多くなる場所が。って好きな人はいないか。そういう飲み会に行かざるを得なかった時代があったこともあって、ますます嫌いになりました。絡まれるのも本当に身の毛がよだつほど嫌でした。そんな場所に小学生からいて、そんな大人ばかり見ていたあの少年は本当に可哀相。そんな大人ばかりじゃないと知って良い大人になってほしいなと思いました。
流出した理由というか原因というか、それも本当にひどい話ですね。でも、そう言うことが現代ではあり得るんでしょうね。本当に信じられない。吐き気がします。
菫が少しずつでも前を向いて歩きだしているのが良かったです。百合への提案は突飛だったような気もしますけど、菫にとっては必要なことだったんでしょうね。
でもあの先輩の言動も気に入らなかったなー。おめーがそう言うの本当にダメとか知らねーよ。おめーがきいて来たんだろうが!って暴言も出ましたよね。自分がやってはいけないことをしてしまったという自責の念もあるからずっと悩んで誰にも言えないでいたのに、そういう人に対してあれはないわー。心の中でそう思っていたとしても、もっと言えることがあったと思います。私もそうありたい。

<双葉社 2017.8>H29.11.9読了