凜
著者:蛭田 亜紗子
講談社(2017-03-15)
販売元:Amazon.co.jp

上原沙矢は、一人特急オホーツクにのり網走を目指していた。遠距離恋愛中の恋人が隣にいるはずだったが、急な仕事で来れなくなってしまったのだ。沙矢は途中にある金華駅で「常紋トンネル殉難者追悼碑」を、そして網走で出会ったある本により、北の大地にいきた女と男の人生を知ることになる。
大正三年。八重子は一人息子の太郎を知人にあずけ、遊郭「宝春楼」で働くために東京から網走へ向かっていた。本州と北海道を繋ぐ青函船の中で、一人の青年と出会う。この青年とはのちにも巡り会うが、そんなこととはお互い想像もせず、それぞれの行き先へ散っていく。
初見世も終わったある日、知人からの手紙を同じ遊郭の百代に読んでもらった八重子は、太郎が死んだことを知る。この日から八重子は変わる、何が何でもトップにたつのだと――。
青函船で八重子と出会った白尾麟太郎は、どういう運命の巡り合わせか、タコ部屋で働くことになる。それまでの裕福で満ち足りた生活とは一変し、生きのびることで精一杯だった。
八重子と麟太郎は過酷な運命にさらされながらも、己の生きる意味を見いだしていく。
そんな彼らの生き様を知った沙矢も、自分の生き方に一筋の光を見いだすのだった。

あまりあらすじを読まないでこの作品を読んでいたので内容の重さにびっくり…。
物語の始まりが北海道だったので、そういえば蛭田さんは北海道出身の作家さんなんだった〜なんて軽く考えていたのですが、内容はそんな軽いものじゃなかった…。
現代の沙矢も今の時代ならではの悩みを抱えていましたけど、大正・昭和のタコ部屋や身売りで借金返済をするしかなかった女性たちの現実は読んでいて本当に辛かったです。
私は生まれも育ちも札幌ですが、この大正時代の事は勉強しなかったんじゃないかなぁ。小中学生には刺激が強すぎてやらなかったのかな…。でも、知らなければいけない史実ですよね。
特にタコ部屋で暮らし、過酷な労働を強いられていた人たちに関しては忘れてはいけないですよね。この人たちが苦労して作り上げたものが現代まで続き、また語り継がれているわけですから…。
八重子と麟太郎、境遇は違えど同じ時代を過酷な状況の中生きてきた二人。本当によく耐えて生き延びてきたなと思います。でも八重子は逃げられない境遇ではあったのだけど、麟太郎はどうして居続けたんでしょうか…。それは村木に対する贖罪の念を持っていたからなのでしょうか…それにしては腑に落ちない点もあったのですが。
逞しく激動の時代を生き延びた男女の姿を見ることが出来ました。
そしてこういう時代があったのだということを、忘れてはいけないとも思いました。

<講談社 2017.3>H29.6.29読了