羊と鋼の森 (文春e-book)羊と鋼の森 (文春e-book)
著者:宮下奈都
文藝春秋(2015-09-15)
販売元:Amazon.co.jp

オススメ!
ゆるされている。世界と調和している。
それがどんなに素晴らしいことか。
言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。
「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。
彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。

読みました。この作品を、今読んで良かったと思いました。
主人公の外村は高校2年生の時にピアノの調律師である板鳥と出会い、衝撃を受け同じ調律師の道を歩みます。ピアノを弾くことは出来ないがそれからの日々を調律の勉強に注いで。
外村は山で生まれ育った青年で、特に目立った特徴がある人ではないです。
でも板鳥に出会ったことで自分が好きなものに出会い、好きなものを仕事にして悩みながら仕事をこなしていきます。
外村は自分には才能がない、調律師という仕事は向いていないのではないかと常に後ろ向きで悩んでいます。でも、板鳥も同僚の柳もそんな外村には気にかけつつも心配はしていない感じがしました。柳が言った言葉が私はとても好きで。
「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似てる何か。俺はそう思うことにしてるよ」
不安だから、追いつかなければ、そういう想いと、好きだという想いから外村は毎日事務所のピアノを調律し、机には何冊も専門書が並び、家ではひたすらピアノが奏でるクラシック音楽を聞いて過ごしていて。勿論才能や向き不向きはあると思います。でも「好き」という気持ちは何物にも代えがたいかけがえのないものなのだということを、この本から教わった気がします。
「好き」っていう気持ちは尊いです。
外村の好きだという気持ち、一生懸命な気持ち、不安な気持ち、たくさん伝わってきました。好きでもどうにもならないことがある。でも好きだから辛くても頑張れる。
そんな強い気持ちを感じました。
読み終えた後の余韻がとても温かくて、しばらく涙が止まりませんでした。
この作品と出会えてよかったです。

<文芸春秋 2015.9>H27.10.14読了