太陽の石太陽の石
著者:乾石 智子
東京創元社(2012-10-30)
販売元:Amazon.co.jp

歴史に名を轟かせたコンスル帝国も、内乱や疫病、隣国の侵攻によって衰退し、いまや見る影もない。霧岬はそんな帝国の最北西に位置する。三百年ほど前、魔道師イザーカト九きょうだいのひとりリンターが空からふってきて、地の底に達する穴をうがち、ゴルツ山を隆起させたのだという。霧岬の村に住むデイスは十六歳、村の外に捨てられていたところを姉に拾われ、両親と姉に慈しまれて育った。ある日ゴルツ山に登ったデイスは、土の中に半分埋まった肩留めを拾う。金の透かし彫りに、“太陽の石”と呼ばれる鮮緑の宝石。これは自分に属するものだ…。だが、それがゴルツ山に眠る魔道師を目覚めさせることになろうとは。『夜の写本師』『魔道師の月』で話題沸騰の著者の第三長編。

シリーズ第三弾です。<オーリエラントの魔道師>シリーズと言われているらしいです。ほう。今回は第2作から842年後の世界です。
一つの世界の物語なのに、魔道師の存在意義も使い方も異なるのでこんなにいろんな世界観を描けるなんて凄いなと改めて感じた次第です。
今回は簡単に言うと魔道師兄弟の大きな兄弟喧嘩ですね^^;
九人兄弟の三番目、ナハティが一番の魔道師としての素質があり、自分が長となるために兄弟を町から追放し、また死闘が起こります。
九人兄弟の末っ子デイサンダーが兄リンターを300年の眠りから覚ましたことから物語が始まります。大地の魔道師ということはレイサンダーの子孫なんですね。名前も似てるし。「太陽の石」も出てきたものね。
300年前に封印された兄弟たちがよみがえり、再び決着をつける旅に出ます。今までのように現代と300年前が行き来していて、その展開の仕方が本当に見事でした。
言葉一つ一つが綺麗で陶酔してしまいます。どうしたらあんな言葉の表現ができるのでしょう。
そして兄弟での争い。切なかったですね。
死と隣り合わせの闘い。確執は本当に最初は些細な事だったと思うんです。それがどんどん膨らんで、闇が濃く深くなっていったんですね。
ナハティが兄弟にした仕打ちは本当に酷いと思ったけれど、根底の部分の気持ちは凄く分かったんですよね。だから凄く切なくなっちゃって・・・。
ちょっと自信過剰な部分はあるけど、両親が亡くなって子供9人だけが遺されて、生きていく為にわずか11歳だったナハティが兄弟のために奮闘していたという事実は事実で。それなのに兄弟は認めてくれないっていうのはやっぱり闇の部分が生まれるだろうなと思ったので。だから同じような孤独という闇を抱えたヤエリもナハティについたんだろうし。だから、もっと前に何か出来なかったのかなと思わずにはいられなかった。
展開も300年前との関わり方も素晴らしかったのだけど、ちょっと予想外の人が死に過ぎて悲しくなった…
ネアリイの立場がよく分からなかったなぁ…私が気づかなかっただけなのかな。
人間でしかないビュリアンが一緒に旅をしたのは途中で分かったけど、どうしてリンターはネアリイの同行を許可したんだろうか。ネアリイが赤ちゃんだったライサンダーを離さなかった理由付けがしっかりなかったのが残念だったかな。
私は勝手にカサンドラあたりの生まれ変わりなのかななんて思っていたのだけど、違ったみたいだし。骨肉の争いをしてその闘いが終わっても結局何も残らなくて虚無感だけみたいな感じが凄く切なかったです。
それでも物語は面白かったんですよ。ちょっと思っただけです。
最新刊ももうそろそろ予約が回ってくるので楽しみです。

〈東京創元社 2012.10〉H25.1.27読了