旅猫リポート旅猫リポート
著者:有川 浩
文藝春秋(2012-11-15)
販売元:Amazon.co.jp

オススメ!
ネタバレが多少ありますのでご注意ください
秘密を抱いた青年と一匹の相棒は“最後の旅”にでた。
さあ、行こう。これは僕らの最後の旅だ。一人と一匹が見る美しい景色、出会う懐かしい人々。心にしみるロードノベル。
「僕たちが旅に出る前のこと」野良の僕は銀のワゴンのボンネットがお気に入り。ここにいても邪険にされないからいつまでもいることが出来るからだ。このワゴンの持ち主は猫好きらしい。彼と出会ったのは、今から5年前の事になる。
「コースケ」僕の飼い主であるサトルがやむを得ない状態となり、僕ことナナを知り合いに預けるためにふたりで旅に出る。初めに会ったのはサトルの小学校時代の友人コースケ。彼とは僕の前に飼っていた猫のハチを飼ってもらうために色々あったらしい。
「ヨシミネ」僕とサトルの旅は続く。次に会ったのはヨシミネ。サトルと中学生の時に一緒だったらしい。ヨシミネは両親が仕事が好きで家に帰ってこないから祖母の家に預けられたらしい。
「スギとチカコ」僕とサトルはペット可のペンションへ向かっていた。そこを営んでいるのがサトルと高校、大学が一緒だったスギとチカコだった。みんな懐かしそうにしているけど、スギの様子が少しおかしい気がした。
「最後の旅」僕とサトルはサトルの両親が眠る北海道へやってきた。
「ノリコ」ノリコはサトルの母親の妹だ。サトルが一人になった時、引き取って育ててくれたのがノリコらしい。

読みました。久しぶりに、小説を読んで泣きました。私、小説を読んでいても滅多に泣かないんですけど。
この作品は猫のナナの語りで物語が進んで行きます。ナナと飼い主サトルとの出会いや、サトルの猫になるまでの経緯が素敵すぎて冒頭で私は心を鷲掴みにされました。
サトルという人は、ナナ目線ですけど最初は優しそうだけど頼りなさそうな、そんな印象でした。でも、そう思ったのは冒頭だけでした。
サトルの友達と会って過去を語る度に、サトルはなんて心の優しい男らしい人なんだろうと思いました。
サトルがやむを得ない状況になったから猫を預かってほしいと聞いて了承する友人がこんなにいるというのは、サトルの人望の厚さがうかがえます。読めば読むほどなんて良い奴なんだ!としか思えなくて、そして読んでいくうちにサトルの事情も分かってきて読み終えるのが悲しくて怖いなと感じるようになりました。
ノリコとナナとの生活も印象的です。ノリコの言い方が本人はそう思っていなくても相手に不快感を持たせてしまうっていうのが何となく私もそうだなーと思ってドキドキしながら読みました。後でフォローしてドツボにはまるというのも分かる。でも、ノリコがサトルに抱えていた思いが悲しくて切なくて。ずっとずっと気にしていたんだなと思うと悲しくてしょうがないです。だからそれを丸ごと理解してノリコにちゃんと伝えるサトルが凄いなとまた思って。
私はサトルの事情に気づいたのが大分後半だったんですけど、もう後半がね…。
いつかは野良に戻るなんて言っていたのに、後半のナナの行動がもう切なくて切なくて…。涙が出ました。ふたりの絆があったかくて強くて。もう素敵だった、良かった、感動したとか、そういう言葉じゃ言い表せないくらい。
そしてもう一つ。この作品でとある俳優さんが1冊の本について熱く語っているシーンがあったのですが、サトルが「コダマさんが薦めるなら読んでみようかな」と話す場面がありました。確実に、児玉清さんのことですよね。児玉さんは有川さんの作品に何冊か解説を書かれたりしていましたし、有川さんの作品を絶賛されているのも読んだことがあります。だから、このセリフは有川さんのはなむけの言葉だったのかなと思って、ここでもうるっとしちゃいました。有川さん、男気がありすぎます(女性ですけど)有川さんが男性だったら確実に惚れてますよ。はい^m^
この作品に出会えてよかったです。有川さんありがとうございました!

〈文藝春秋 2012.11〉H24.12.13読了