カマラとアマラの丘カマラとアマラの丘
著者:初野 晴
講談社(2012-09-27)
販売元:Amazon.co.jp
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別れの時、動物(ペット)と言葉を交わせたら。
閉鎖された遊園地には、一人の青年が守る秘密の動物霊園があるという。
廃墟となった遊園地、ここは秘密の動物霊園。奇妙な名前の丘にいわくつきのペットが眠る。弔いのためには、依頼者は墓守の青年と交渉し、一番大切なものを差し出さなければならない。ゴールデンレトリーバー、天才インコ、そして…。
彼らの“物語”から、青年が解き明かす真実とは。人と動物のあらゆる絆を描いた、連作ミステリー。
「カマラとアマラの丘 ―ゴールデンレトリーバー―」
金子リサは心理療法士。担当しているおばあさんから廃墟の遊園地の話を聞く。
愛猫を辛い形で喪ってしまったそのおばあさんは、愛猫を探すため夜徘徊するようになり、その時に動物霊園があることを知ったのだという。リサは力を振り絞って、その遊園地にたどり着いた。そこにいたのは一人の青年。
リサの願いはただ一つ。ハナをここに埋葬して欲しい。ということだった。
「ブクウスとツォノクワの丘 ―ビッグフット―」
アメリカ人のブライアン・レイとその妻夕鶴が巨大な何かを連れて廃墟となった遊園地へやってきた。ブライアンは、アメリカから持ち帰ってきた伝説の獣「ビッグフット」をここに埋葬して欲しいという。
青年は主張する。あなたがたの話を最後まで聞いて、一人でも反対に手を挙げる者がいれば、埋葬は諦めてください、と。
ブライアンが席を外すと、ブライアンが言うには流産したことがきっかけで精神を病んでしまった夕鶴が青年にブライアンが語ったのとはまるで違う話を始めた。
「シレネッタの丘 ―天才インコ―」
その日非番だった刑事の市川は、一縷の望みをもって廃墟となった遊園地までやってきた。
市川は、三鷹で起こった殺人事件の捜査をしていた。新聞に大きく取り上げられていた事件だった。
担当から外された市川は、祖父母が殺害された現場で唯一一命を取り留めた、脳性マヒを患う孫の仁紀の記憶を喚起するかもしれない切り札を探していた。
「ヴァルキューリの丘 ―黒い未亡人とクマネズミ―」
弁護士の鷺村は、ある男の後をつけていた。
「おんじい」と呼ばれる、ネズミ取りで有名なその男は、不思議な青年に何かを手渡していた。
鷺村はおんじいのことを、リゾート開発される予定の土地の不法占拠の片棒を担いでいる男だと考えており、裁判で勝つために青年に協力を仰ぐために事情を説明した。
孫が数億の負債を抱えていたため土地を売った売主。しかし、リゾート地になることが決まったにもかかわらずその売主がなぜかその計画一切を止めたいと言い出していた。それと同時期に地元の若者13名が一時行方不明になっていた。
「星々の審判」
ある少年が気が付くと廃墟になった遊園地に来ていた。彼は以前、ライカと名前を付けた犬を飼っていた。殺処分される直前だったその黒のラブラドール。保健所にいた、少年の言葉を聞いてくれた片目だけ二重の青年が、この廃墟にいた。

初野さんの新刊です。
カマラとアマラってなんだろうと思ったら、実際にいた少女の名前だったんですね。少女たちの境遇を読んでいたら「ガラスの仮面」の狼少女ジェーンを思い出しました。きっとこのお話が原作だったんですよね。
ストーリーは森野幸久という廃墟の遊園地を管理する耳の聞こえない青年を通して悲しい境遇となった動物たちの事が描かれています。
初野さんの作品って、ハルチカシリーズ以外は暗いイメージがあります。でも、ただ暗いだけではなくて、どこか現代とは違う世界観があって、救いようがない中にも光があるというか・・・全然うまく説明できないのですが。
この作品もそうです。どの作品に出てくる動物も最後がとても悲しいです。幸せだったのかなと問いたくなるような。
それでも、森野や、この場所が死んでしまった後に癒してくれているのだろうと信じています。
最後の「星々の審判」の少年の正体、何となく気づいていたけど、あの少年の最後が前向きな終わり方だったら良いなと願わずにはいられません。
森野の秘密も驚きました。
本当に、切なくて温かい作品を書くのが上手いなぁと思います。
辛い内容が待っているかもしれないけど、きっと小さな光がどこかに射しているかもしれない。だから、読まずにはいられない。そう思わせてくれる作家さんだと思います。

〈講談社 2012.9〉H24.10.17読了