エムブリヲ奇譚 (幽ブックス)エムブリヲ奇譚 (幽ブックス)
著者:山白 朝子
メディアファクトリー(2012-03-02)
販売元:Amazon.co.jp
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社寺参詣や湯治のため庶民は諸国を旅するようになった。旅人たちは各地の案内をする道中記を手に名所旧跡を訪ね歩く。『道中旅鏡』の作者・和泉蝋庵はどんな本でも紹介されていない土地を求め、風光明媚な温泉や古刹の噂を聞いては旅をしていた。しかし実際にそれらがあった試しはない。その理由は蝋庵の迷い癖にある。仲間とともに辿りつく場所は、極楽のごとき温泉地かこの世の地獄か。江戸――のような時代を舞台に話題の作家・山白朝子が放つ、奇妙な怪談連作。
「エムブリヲ奇譚」和泉蝋庵と共に旅をしていた耳彦は旅先でエムブリヲを見つける。成り行きで引き取ることになる。母親から切り離されたエムブリヲは通常すぐに息絶えるのだが、なぜかずっと死ななかった。
「ラピスラズリ幻想」輪という少女は何度もこの世を生まれ変わって生きている。老婆から決して自分で死んではいけないと言われていた。
「湯煙事変」ある温泉に入りに行った人は戻ってこないと言われている。耳彦は蝋庵の命により浸かりに行く。そこにいたのは、小さなころに死んだはずの幼馴染ゆのかがいた。
「〆」例によって例のごとく道に迷った蝋庵と耳彦。耳彦は泊めてもらうことになった村での食べ物、飲み物全てに人の顔が写っているように見え、何も手に付けられなくなる。
「あるはずのない橋」2人が旅をしていると橋を見つけ、地元の人に何という橋か聞くとそこに橋はないという。昔はあったのだが崩れたという。その日の夜、耳彦は見えた橋へ向かおうとすると老婆がいた。その橋の見える場所へ連れて行ってほしいという。その橋が崩れたことで子供を失ったのだという。
「顔なし峠」道に迷った二人はようやく見つけた村で泊めてもらう事に。そこに住む人たちは耳彦を見て一様に驚き、避けている。この村で亡くなった人物とうり二つなのだという。
「地獄」2人が道を歩いていると山賊が現れ蝋庵は崖から落ち、耳彦は連れ去られた。耳彦は穴に閉じ込められるがそこには先客の若い夫婦がいた。
「櫛を拾ってはならぬ」耳彦は旅をしてきた蝋庵の話を聞いた。今回同行した若い荷物持ちが不審死をとげたという。
「「さあ、行こう」と少年が言った。」私は嫁ぎ先で酷い扱いを受けていた。ある日偶然道に迷った少年が現れ、私に文字を教えてくれるようになってから、それだけが楽しみだった。しかし、その楽しみは唐突に奪われる。私の行動を不審に思った夫たちが私たちにあらぬ疑いをかけたからだ。

山白朝子さんの新刊です。
以前読んだ「死者のための音楽」がとても好きだったので、今回も楽しみにしていました。きっと怖いんだろうなと思ってビクついていたのだけどそれでもやはり面白かった。
面白いと一言で片づけるにはそうは言えない辛く悲しいものも多々ありましたが、その展開や顛末がまたやはり面白くて。流石だなぁと思います。
全ての作品がぞぞっとするのだけど、1作1作の怖さが違うと言いますか・・・よくこれだけ怖い展開が書けるなと驚きます。
私はほぼ通勤中しか読まないから良かったけど、この本はきっと夜に読んだら怖くて夢に出てくるかもしれません^^;
お話によっては結構スプラッタなものもあったので…
それでも大満足の作品でした。
オススメをつけたかったけど、やっぱり内容が怖いからそれはやめておきます^^;
「エムブリヲ奇譚」表題作。エムブリヲの存在は想像すると怖いけど、それでも何だか赤ちゃんのように可愛い印象を受けました。耳彦と離れるとき読んでいても少し切なくなりました。
「ラピスラズリ幻想」読んでいて昔のドラマ「君といた未来のために」を思い出しました。まあ、内容は全然違うのだけど、同じ時代をぐるぐる生きるというところで。輪の選択には驚いた。でも、ああやって食い止めるしか術はないですよね。
「湯煙事変」とても切ない話でした。これは怖くなかったかな。ゆのかに対する耳彦の切ない想いが伝わってきました。ゆのかのことをちゃんと思いだせたことが報いだったのかなと思います。
「〆」なんとまあ・・・^^;蝋庵のように気にしなければいいのに気にしてしまって最後の極限状態の時にした行動。どっちが正しかったのかはわかりませんけど、人間追いつめられると何でもしちゃうんだなと思いました…。
「あるはずのない橋」素敵なラストになるんだろうと思っていたらまさかあんなことになるとは。極限状態に陥った耳彦が最後にした行動。耳彦の恩が仇で返されたような…耳彦もただ老婆のことを考えてやっただけなのにね。
「顔なし峠」耳彦は喪吉として生きていった方が幸せだったのか、それは分からないですけど、耳彦の存在があの家族を少しだけでも幸せにしているんだって考えるだけでちょっと前向きになれました。
「地獄」これが一番スプラッターでした^^;怖かった〜…。色々展開がありすぎて、そして最後までグロテスクで、参りました。凄いわ〜…。
「櫛を拾ってはならぬ」これも気持ち悪かったかなぁ。私は髪が短いから想像があまりできないのだけど、実際に長い髪がそこらじゅうに落ちていたらって考えたらこれからはぞぞっとするかも。
「「さあ、行こう」と少年が言った。」嫁ぎ先の家族たちの仕打ちがあまりにもひどくてイライラしてました。でも、少年が来たことで変わっていくのが読んでいても伝わってきました。少年の正体はすぐに分かったけど、彼の境遇が分かって良かったです。最後の展開にはドキドキしたのに、彼の放浪癖が邪魔しましたね。楽しみにしていたのに!

<メディアファクトリー 2012.3>H24.4.12読了