誰かが足りない誰かが足りない
著者:宮下 奈都
双葉社(2011-10-19)
販売元:Amazon.co.jp
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予約を取ることも難しい、評判のレストラン『ハライ』。10月31日午後6時に、たまたま一緒に店にいた客たちの、それぞれの物語。認知症の症状が出始めた老婦人、ビデオを撮っていないと部屋の外に出られない青年、人の失敗の匂いを感じてしまう女性など、その悩みと前に進もうとする気持ちとを、丹念にすくいとっていく。
「予約1」原田は大学を卒業後コンビニで働いている。かつて付き合っていた彼女は、交際中に違う男性と婚約をしてしまった。あれから月日が流れ、原田の働くコンビニに彼女と結婚した男がやってくる。
「予約2」私は時々訪れる息子や孫たちに「最近あったニュース」を聞かれるのがたまらなく嫌になっている。記憶も曖昧になってきているが、孫が紹介したい人がいるからハライに一緒に行こうという。行ったことがないはずなのに、聞いたことがある名前だった。
「予約3」私は職場で尻拭い要員ということで昇進し、毎日休みなく働いていた。ある日、隣に住んでいた幼馴染のヨッちゃんが帰ってきたことを知る。
「予約4」僕は母が死んでから引きこもりとなり、さらにビデオを通してでないと人と話すことができなくなってしまった。姉は嫁ぎ、妹と2人で暮らしていた。ある日、妹と同じ学校の篠原さんという人が家にやってくるようになり、少しずつ変化が訪れる。
「予約5」調理師を目指して働きつつ勉強している俺。いつものようにオムレツを作っていたら、このオムレツはいらないときれいな女性に断られた。休憩時間、彼女に再会し、なぜか自分の部屋までついてくることになる。
「予約6」留香は失敗した人の匂いを感じ取ることができた。そのことにまだ気づいていない幼少のころ、大好きだったいとこの父親である叔父からその匂いを感じ、その後失踪している。

良かったです!宮下さんの作品は心が温まります。
今回登場する方々は何かしらの悩みを抱えていて、悩んだり少し絶望したりしているんだけど、いろんな意味で、救いの手があるのがいいなと思いました。
それは、家族だったり友人だったり見ず知らずの人だったりするのだけど。
人はいろんなところで繋がって、支えられているんだなと思う作品でした。
どのお話も好きだったけど、認知症の症状が出てきているおばあさんの話はよかったです。過去のおばあさんとおじいさんのお話も素敵でしたし、おばあさんの息子の家族が素敵。奥さんも素敵な方でした。
あとは引きこもりの青年と妹とそのお友達の話。引きこもっている青年にも大きな問題が渦巻いていて、周りの人たちも様々な想いを抱えていて、それでも支えあって前を向いて進もうと思っている姿がよかったです。青年も、最後は少しだけど前進していて安心しました。
私もみんなが美味しいと絶賛するハライへ行ってみたいです。そこで、コンソメスープやオムレツを食べたいと思いました。

〈双葉社 2011.10〉H23.11.8読了