箱庭図書館箱庭図書館
著者:乙一
集英社(2011-03-25)
販売元:Amazon.co.jp
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少年が小説家になった理由。コンビニ強盗との奇妙な共同作業。ふたりぼっちの文芸部員の青くてイタいやりとり。謎の鍵にあう鍵穴をさがす冒険。ふと迷いこんだ子どもたちだけの夜の王国。雪の上の靴跡からはじまる不思議な出会い。集英社WEB文芸「RENZ ABURO」の人気企画「オツイチ小説再生工場」から生まれた6つの物語。
「小説家のつくり方」
山里秀太は小説家だ。取材の中で何故小説家を志したのかを聞かれる。どこへ行くにも本を持ち、読み出すと止まらなくなる活字中毒の姉がいるのも影響しているが、小学生の時に担任だってH先生へ小説を書くようになったのがきっかけだった。
「コンビニ日和!」
島中ちよりと先輩はコンビニのレジに立っていた。閉店間際に強盗が入ってくる。2人はどうにか強盗を落ち着かせようと言葉を交わす。どうにか和解成立しかけたとき、客として警察が来店してきた。
「青春絶縁体」
僕は高校生になって文芸部に足を踏み入れた。部室には一つ年上の小山雨季子がいるだけ。僕は部室に入って早々辛辣な言葉を投げつけられる。しかし、僕も言葉を返すことが出来た。しかし、僕はクラスで1人浮いていた。自分に自信がなく、話しかける勇気もなかった。
「ワンダーランド」
高田少年は先生からも家族からも真面目な少年と捉えられている。あるとき、鍵を拾い、その鍵がどこに合うのか探すのが暇つぶしの一つとなった。
「王国の旗」
小野早苗は何者かに誘拐され、車のトランクの中にいた。車が止まり、早苗は外へ出た。ここがどこなのかと彷徨っているとミツと名乗る少年が現れる。少年についていくと古びたボウリング場に着いた。そこには、小学生くらいの子供たちが大勢いた。彼らは昼間は子供として普通に過ごし、両親が寝静まると家を抜け出し、ここで子供たちと過ごしているのだと言う。
「ホワイト・ステップ」
近藤は新年を迎えても、1人で過ごしていた。外を歩いていると誰もいないのに自分以外の足音が聞こえる。雪に文字を書くと相手にも通じたらしい。相手も返事を書いた。姿が見えないが雪に文字を書くと双方に見えるらしい。近藤は平行世界なのではないかと思い、相手に自分の住む場所へ行ってほしいと頼む。

小説とあまり関係のない話ですが、乙一さんは去年の12月にお子さんが生まれたそうですね。おめでとうございます。そして、今はオムツ替えに奮闘しているそうです。
「箱庭図書館」が出版される事になって、これで妻と子供を養えますってことをおっしゃっていました。いや、真面目に書けば安泰だと思いますけど。と、失礼な事を言ってみる。
本当に久しぶりの乙一作品。まあ、完璧全て乙一作品という本ではありませんでしたが、それぞれ乙一らしさが出ていて私はとても満足でした。
「小説家のつくり方」「青春絶縁体」「ホワイト・ステップ」が好きでしたね〜。痛切な系と言われる乙一らしさが出ていた作品だと思いました。
不意を衝かれたのは「コンビニ日和!」かなぁ。でも乙一って言うよりは、伊坂さんっぽかったかも。乙一さんならもっとグロテスクなものへ変貌するような気がしたので^^;でも、面白かったんですよ。好きです。
「小説家のつくり方」も「青春絶縁体」も、痛いところが好きです。学生の頃の人と関われない虚しさや葛藤が凄く伝わってきます。小山先輩の「教室にいるときのみっともない自分をあんたにだけは見られたくなかったんだ」って言う言葉には、何だかきゅ〜んとして先輩を抱きしめたくなりました。
「ホワイト・ステップ」はスニーカー文庫で出ていた乙一さんの作品を彷彿とさせる感じでしたねぇ。「君にしか聞こえない」みたいな感じでしょうか。素敵でした。
どの作品にも登場する潮音さんが良いですね。本当の活字中毒ですね。尊敬します。私は潮音さんのようになりたい。(止めといた方が・・・)
潮音さんが無理矢理登場した感じだった作品もありましたが、どの作品もキーマンとなっていますよね。最後の作品では何だか素敵な事が起こりそうで思わずニマニマしてしまいました^^
最後にボツとなってしまった作品の話を乙一さんが解説しています。どう自分が作品を変えて創り上げたのか分かるのでそれも面白かったり。
「自分は別名義でラブコメの小説も書いているんですが」って書いてるのに反応しました。中田永一はラブコメなのか・・・確かに。
乙一=中田永一と言う噂があるがどうなんだろう。似ているような似ていないような・・・って、本好きの方と話をしているときが面白かったなぁと思います。もう乙一さん、自分が中田永一名義でも書いているって認めたんですもんね。ネタバレになっちゃうとちょっと寂しいもんですね。
どうでもいい話ですが、帰りのバスでこの本を読んでいたとき、気付いたら降りる停留所を通り過ぎていました。直前の停留所までは覚えていたのに・・・。はっと前を向いたら降りる駅で止まっていて、立ち上がろうとしたら扉が閉まりました^^;
「まさに潮音みたいだな」と、タイムリーな事を思いました。
潮音のエピソードの足下にも及びませんけども。

〈集英社 2011.3〉H23.5.21読了