ばんば憑きばんば憑き
著者:宮部 みゆき
角川書店(角川グループパブリッシング)(2011-03-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

「坊主の壷」江戸中でコロリが流行り、おつぎは両親と兄と弟を失った。おつぎは田屋へ女中奉公に出ることになった。旦那様は流行り病にならないためにいろいろな対策を使用人に教えてくれていた。1年が経過したある日、おつぎは旦那様が絵を見ている場面に出くわす。その絵には壷が描かれていた。そしてその中には坊主が入っていた。しかし、他の使用人にその坊主の姿は見えないらしい。
「お文の影」政五郎は左次郎と言う老人から妙な話を聞く。少年吉三が子供達の影に混じって、1つ多く影が見えるのだと相談を受けたと言う。その正体を突き止めるために政五郎は動くも手がかりが見つからなかった。しかし、思わぬところで情報を得る。政五郎夫妻が引き取っている通称「おでこ」が手がかりとなる情報を持っていた。
「博打眼」醤油問屋の近江屋の主人が突然騒ぎ出した。娘のお美代はなぜ家の中が騒がしいのか分からない。しかし、近所の太七が不思議な事を言った。布団のような形の黒くてたくさんの目玉を持ったものが空を飛んでいたのだと言う。その話を聞いた後、神社の狛犬が訛りの入った言葉で何かを言っているのが聞こえた。その訛りはよく遊んでくれる竹兄の言葉に似ていた。狛犬は近江屋を助けてくれると言う。
「討債鬼」青野利一郎の元へ大之字屋の番頭久八がやってきた。大之字屋へ突然僧侶が現れ、ここにいる子供は鬼であり、災いを起こすため殺せと言ったのだという。息子の信太郎は心の優しい子で、病弱な母のために医師になると言っている聡い子だ。何かあるに違いないと、利一郎は悪童3人組にその僧侶行然坊の後をつけるように頼む。
「ばんば憑き」湯治旅の帰途、若夫婦が雨で足止めになった老女との相部屋を引き受けた。不機嫌な若妻をよそに、世話を焼く婿養子の夫に老女が語り出したのは、五十年前の忌まわしい出来事だった。
「野槌の墓」柳井源五郎右衛門は妻を亡くし、7つになる娘加奈とふたりで暮らしていた。源五郎は「何でも屋」を生業としており、娘が不思議な事を言っていた。猫のタマは人間に化けると言う。そして、何でも屋の源五郎に依頼したいことがあるというのだ。娘伝手で話を聞こうとするもタマの姿は見えなくなった。数日後、加奈が眠った後に、1人の女性が訪れる。

ネタバレあります。

怪談時代物です。怪談と銘打たれていますが、そこまで怖くはなかったかな。
どの作品にも少し不思議な人ではないものが登場しますが、中には怖いものもありますが基本的に怖くはありません。
どのお話も読みやすくて入り込めます。時代物が苦手な人もすんなり読めると思います。少し長めの話ですが、あっという間に読んでしまいました。
少し怖いけど、切なくて温かい。そんな作品ばかりだったと思います。
「坊主の壷」は怖くはなかったです。でも、人を助けると言う術を知りそれを受け継ぎ代々語り継いでいかなければならないって言うのは辛いかなと思いました。おつぎが今回は継いだけども、その後はどうなるんだろうとか、最後からしておつぎも死んでしまったら旦那様のように壷に入ってしまうのかなぁと思ったり。そう考えると少し怖いですね。
「お文の影」は本当に可哀相でした。世継ぎを孕むために引き取られたお文は、養父母の間に子供が出来ないからという理由で隔離され暴力を受け。何も悪くないのに可哀相すぎます。読んでいて辛かったです。影が戻ってきたことで、遊び相手が戻って喜んでいるといいなぁと思いました。この回で政五郎とおでこが登場したのは嬉しかったです。
「博打眼」こちらも代々受け継がれているもので、こちらは忌まわしいもの。奮闘するお美代が可愛らしかったです。そして、竹兄もよかった。
「討債鬼」青野利一郎とか、悪童3人組はどこかで見たことがあるなぁと思っていたのですが「あんじゅう」だったんですね。去年読んだはずなのにもう忘れています^^;「あんじゅう」で書かれていたのかは忘れましたが、利一郎は本当に辛い過去を経験していたんですね。今では考えられない。現代だったら利一郎は1番愛している人と幸せになれたはずなのに。悪童3人組は悪知恵は働くし口も達者だけど、本当はいい子達なんだよね・・・。
「ばんば憑き」ばんば憑きのことの前に、佐一郎が本当に不憫でならない。お志津は本当にワガママだし、相手がどう言ったら傷つくかとか、そんなことは全く考えていないし、読んでいて腹が立ちました。あんなに佐一郎は尽くしてくれているのに。ばんば憑きの話は怖かったです。あの老婆は八重だったのかお由だったのか誰だったのか、気になります。
「野槌の墓」このタイトル、あの有名な作品に肖っている訳では・・・ないですよね。失礼いたしました。源五郎と奥様の話が切なくて悲しかったです。2人は娘さんと一緒にずっと仲良く暮らしてほしかったなぁ。それでもお盆に源五郎がタマの依頼を受けて遂行した事で奥さんの言葉も聞けて最後は心が温かい気持ちになりました。

〈角川書店 2011.3〉H23.5.18読了