まほろ駅前番外地
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「光る石」多田便利軒に宮本由香里がやってきた。彼女は結婚が決まっており、指輪を選ぶのを手伝ってくれた会社の同僚武内小夜が、同じデザインでダイヤの大きな指輪を購入したというのだ。そして後日お披露目会があるらしい。それが我慢ならない由香里は、清掃を頼まれている小夜の家から指輪を探し出してほしいと依頼を受ける。
「星良一の優雅な日常」星良一の日常は規則的だ。今日は清海が寝ているために太ももが胸を圧迫し、早く目が覚めてしまった。いつも行っているジョギング中、刑事に話しかけられ気分を害した。家に戻って朝食を作っていると悪いタイミングで多田便利軒から連絡が入る。清海が星の家で猫を飼おうとしているようなのだ。
「思い出の銀幕」曾根田のおばあちゃんのお見舞いに来た多田と行天。ばあちゃんは自分の半世紀以上前の恋物語を語り始めた。菊子は映画館のもぎりをしている。歳は28歳。彼女には許婚の啓介がいたが、終戦から2年が過ぎても帰ってきてはいなかった。もう縁談をしてみてはどうかと言われていた頃、菊子は行天という男性と出会う。
「岡夫人は観察する」岡夫人には心配事がある。夫が頑固になったこと、嫁入りの際に植えて貰った椿の元気がないこと、そして夫に間引きの調査と庭の手入れを頼まれている便利屋の2人の仲が最近良くない事。便利屋と関わるようになり、2人のことが気になり始めた。特に飄々として言う行天という男に、岡夫人はかつて会ったことがあるのを思い出した。
「由良公は運が悪い」由良は両親が出かけてしまったために1人ですごす事になった。出かけると、苦手な便利屋に付きまとわれる。行天という男は若い女に食べ物をたかるし、人の後は付けるし変なやつだ。でも、腕っ節は強い。彼は多田と同窓会へ行きたくなく、逃げているようだった。
「逃げる男」多田便利軒の元へ、遺品を整理してほしいと言う連絡が入る。依頼主は柏木亜沙子。キッチンまほろの社長である。亡くなったのは夫で、遺品は部屋中に置かれている本たちだった。なぜ夫は狭い部屋で1人で暮らし、1人で死ぬ事になってしまったのか。
「なごりの月」出張に行かなければならないが妻がインフルエンザで寝込み、娘の美蘭の世話をしてほしいと連絡が入る。健康食品に心酔している妻により出前は頼めないという。2人で奮闘するが、子供の機嫌も悪くなる一方だ。だんだん、行天の様子がおかしくなる。

「まほろ駅前多田便利軒」の続編です。続編だと分かっていながら、読んでみても???というところがいくつもありました。
前の作品を読んだのが3年半前。行天の存在と、2人とも結婚は上手くいかなかったって言うのと、行天が昔大怪我をしたっていうことしか覚えていませんでした。岡夫人のくだりの間引きって言うところは何となく記憶にありますが。
でもまあ、人物があやふやな状態でも楽しんで読めました。
一つ一つのストーリーがとても面白いです。
私が好きなのはまず「岡夫人は観察する」です。岡夫人が多田と行天について思うところを想像している文章が、読んでいてしをんさんらしさを感じました。多田と行天が客観的に捉えられているのが新鮮で面白かったと思います。旦那さんは何だかうるさそうですけど、多田と行天のことは気に入っているし、奥さんの事もちゃんと思っている部分も伺えたのでよかったと思います。一緒に暮らしたいとは思いませんけど^^;椿の謎はなるほどと思いましたけど、納得はできませんでした。多田・・・それはないだろう。と思ってしまい。それなら家のトイレを借りなさいよ。と思います。
あと好きなのは「思い出の銀幕」です。昔話が面白くて面白くて。三角関係もいいですし、また男と女の感情を上手く描いていますよね。3人のバランスがとても上手く書かれているなぁと思いました。でも、しをんさんだから三角関係と見せておいて行天と啓介が実は出来ていて菊子は蚊帳の外なんじゃないかとかあらぬ妄想も立ててしまいました。まさにしをん病ですね^^;そんな事は置いておいても。この作品は好きです。
他の作品も勿論好きです。最後の行天の怯えが気になります。何だかまだまだ続きそうですね。
面白かったです。

〈文芸春秋 2009.10〉H22.2.16読了