水の時計

オススメ!
医学的には脳死と診断されながら、月明かりの夜に限り、特殊な装置を使って言葉を話すことのできる少女・葉月。
生きることも死ぬこともできない、残酷すぎる運命に囚われた葉月が望んだのは、自らの臓器を、移植を必要としている人々に分け与えることだった―。
その運び人として選ばれたのは、集団暴走族「ルート・ゼロ」の幹部である高村昴という未成年の少年だった。
透明感あふれる筆致で生と死の狭間を描いた、ファンタジックな寓話ミステリ。第22回横溝正史ミステリ大賞受賞作。

「文庫の本棚」様のブログで拝見し、読みました。
面白かった!なんて素晴らしい作品。感動しました。
横溝正史ミステリ大賞受賞作。デビュー作だそうです。
「幸福な王子」をモチーフにした作品。
脳死と診断されながら、死ぬ事が出来ない少女・葉月。
そういう設定から、若干ファンタジー系があるのも否定できないからなのかな。
でも、テーマはとても重い。「脳死」「臓器移植」についての問題がリアルに描かれていると思います。
移植を必要としている人たちからなるオムニバスのような連作短編集です。
失明寸前の妹を守ろうとする貴子。
笠原というフリーライターがであった腎不全に苦しむ仲西という女性。
心臓病と闘う元中学教師の森尾。
昴は自分で移植すべき人を見極め、葉月の臓器を運びます。
葉月と昴は何故か関わりがあるようなのですが、昴に心当たりはない。
その理由が最後分かるのですが、本当に切ない。
葉月がこうなる前に出会っていたら、2人の人生はもしかしたらちょっと変わっていたのかもしれない。
昴は暴力団の幹部で、内部分裂も起きていて、警察とかつての仲間にも追われる身。
悪い奴なのかと思いきや、中学生の時まで優等生で卒業と同時に変わってしまったのです。
それは、社会の理不尽な差別。一生懸命やっている人間の努力を踏みにじるような行為。
昴の境遇は本当に切ない。絶対に聡明で、素敵な子だったんだと思う。
それなのに、どうしてこうなってしまったのかと切なくてならない。
重いテーマが根底にありますが、ミステリ要素もあります。
ラストは美しくて綺麗でした。心の中で、いい結末を想像してます。
いい作品に出会えました。他作品はどうやらあと1作らしいのですが、読んでみたいです。

〈角川書店 2002.5
 角川文庫 2005.8〉H20.5.11読了