魔王

事故で両親を亡くし、弟の潤也と2人暮らしをしている安藤。
電車の中で老人が、自分が思ったとおりの言葉を発した時から、自分にある能力について気付き始める。
同時期に、犬養という政治家が人々を釘付けにした。
いつもの政治家とは一味違う。政治家にとって不利益な事でも、国のため、国民のために政治を行っている。
犬養は今の日本の現状を5年で変えると、テレビで宣言。できなければ首をはねろという大胆発言も発していた。

伊坂さんには珍しく、重い作品だったんじゃないかなぁ。
政治、憲法9条、ファシズム、などなど。
政治経済が苦手だった私にとってはちょっと大変でした^^;
始めは安藤が何にでも、ファシズムに結びつけているから、何て理屈っぽい人なんだ!って思ったんだよね。
考えすぎ!って、潤也じゃなくても思う^^;
喫茶店の老人を見て、将来の自分の姿だと涙を流したり、炭酸には秘密があると考えたり。
犬養が愛していた宮沢賢治の詩は読んだ事があったけど、日本と結びつけた事は流石になかったなぁ。
 『諸君の未来圏から吹いて来る 透明な清潔な風を感じないのか』
でも、この作品の中でこの詩を読むと、日本には必要な言葉だなぁと思えてくるから不思議。
みんな、集団でいる事で安心するんだよね。それで、触発されて事が大きくなっていくんだよね。
ちょっと野沢尚の「砦なき者」を思い出したよ。
まあ、アレは同じ集団行動でも洗脳されていたんだけど。
「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば」「世界が変わる」
という安藤の言葉。
「私を信用するな。よく、考えろ。そして、選択しろ。」という犬養の言葉。
今の日本に必要な事だよね。
周りに流されず、インターネット上の動き回る情報にも流されず、自分で考えて動けって言う事なのよね。
それを、考えされられた気がした。
でも、始めは伊坂さんが何を伝えようとしているのかイマイチつかめなくて、困った^^;
いつもの作品とはちょっと違う気がした。
悪くはないけど、いつもの伊坂さんっぽさがもっと欲しかったかな。と思う。
「呼吸」は「魔王」の5年後の話。
潤也の恋人、詩織目線で進んでいきます。
2人はほのぼのしていていいね^^
兄の理屈っぽい言葉の影響を受けているなぁと感じました。
あと、「死神の精度」の千葉もちょこっと登場していて、伊坂作品の繋がりを感じた。
しっかり登場人物全員を把握していったら、更に面白さが増すよね。

〈講談社 2005.10〉H18.1.4読了